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9 , 眠れない夜に歌う歌 ページ24

その夜は何故か眠れなかった。
ベッドからこっそり抜け出してキッチンに忍び込む。水でも飲もうかと思ったら、リビングに人影が見えた。
俺以外に唯一起きていた彼女は、窓辺に座って月を見ている。
声をかけると彼女は笑ってこう言った。

「いいかい。眠れない夜は少しだけ海に沈むんだ」

どうして?と俺は聞く。
フッと笑う声が聞こえた。
暗闇で彼女の顔は見えなかった。その代わりに自分の金髪が視界の端で輝く。

「自分を殺せば、全てが丸く収まる……素敵な話だろう?」

殺してもそれは夢の中…。何も現実に影響は無い。
だから、ね。

「君も沈んでみればいい。……きっとよく眠れる筈だ」





子供の頃、俺の実家には幽霊が居た。
よくテレビや映画なんかで出てくる悪霊何かとは違って本当に人畜無害なヤツだったと思う。
ただ居るだけ。地縛霊らしい。
俺にしか見えなくて、こちらから話しかければ会話をしてくれるが、それ以外は何もなし。
思い出と言ったら、彼女はよく月を見ていたことくらいか。
幼心にかぐや姫みたいだ、なんて思ったっけ。

(……ああ、そう言えば)

彼女は俺が眠る直前によく歌ってくれた。
綺麗だけど、どこか悲しい歌。毎回違う歌で、でも全部海をテーマにした曲だった。
そんなだから、1度だけ曲名を聞いたことがある。
その時彼女は悲しそうな顔でこう言った。

「…この歌には、名前が無いんだ。昨日のも、その前のもね。だから…君が付けてくれないか?」

当時の俺は眠くてしょうがなくて、「あー」とか「うー」とか唸った気がする。
そんな俺に彼女は柔らかく笑ってまた歌う。
どういう訳か彼女の歌を聞くと自然とすっきり眠れた。
その日も気兼ね無く俺は寝た。

そんなある日、俺はいつも通り彼女の歌を聴きながら寝た。…が、その日だけはあまり寝付けず、いつの間にかどこかに行ってしまった彼女を探す。
一番近いキッチンから見て、いないとわかった俺は水道の蛇口を捻ろうとした。
その時、人影がちらりと見える。

(レーちゃんだ!)

幽霊だからレーちゃん。安直だが自分の名前と同じで俺は気に入っていた。
俺が近付くと、彼女は月を見るのを止めておもむろに振り返る。

「……眠れないのかい?」

こくりと頷くと、「ふーん?」と興味ありげに顔を覗いてくる。
それからうっそりと笑って、こう言った。

「いいかい。眠れない夜は少しだけ海に沈むんだ」

そんな彼女はいつの間にか居なくなっていた。
きっと地縛霊だから成仏したのだろう。

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設定タグ:名探偵コナン , 短編
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マリコ - 名探偵コナン短編集は工藤新一君の弟設定と世良真純さんに恋をしてそれから歩美ちゃんより幼い小柄男ヒロインを幼児化してそしてヒロインが真純さんに『好き』って気持ちを答えるお話を見せてください。 (2019年10月20日 23時) (レス) id: fa99c5701b (このIDを非表示/違反報告)
マリコ - 『歩美ちゃんの妹とコナン君に恋と正体の秘密を守ると告白する』って感じですかねですね?はい、その通りです。赤井家と絡めれば宜しいでしょうかですね?はい、もちろんOKです。 (2019年7月22日 16時) (レス) id: 1045ea89cf (このIDを非表示/違反報告)
マリコ - 名探偵コナン短編集は吉田歩美ちゃんの妹設定と江戸川コナン君に恋をしてそれから志保ちゃんと新一君の正体もヒロインと世良真純さんと領域外の妹さんと羽田秀吉さんも秘密を守ってそしてヒロインがコナン(新一)君に『好き』って気持ちを答えるお話を見せてください。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 4520529d99 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Nir | 作成日時:2019年4月6日 23時

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