【閲覧注意←】パンドラダイアリー。【妄想オリジナル】

こんなになっても私、まだ愛したりなかったんだ。 ページ27

「…ど、ういうこと？」

懐かしい声に、私は思わず顔を上げてしまった。
長いこと聞かなかった声。
愛したはずの声。
愛を囁かれたその声。

クリスが、驚きに口を開いた。

まるでこれから死ぬような口ぶりに、思わず反応してしまったのだろう。
だけど自分が声を発したことに驚きながらも、クリスはまた俯くことはなかった。
相変わらず、私と目を合わせてはくれないけど。

「…どういうことって？」
「どういう、意味だよ…」

遠慮がちに、小さい、だけど確かな声。
私は思わず目を細めてしまった。

ねぇ、「好きだ」って「愛してる」って
いとおしそうに私の名前を…
「A」って、嬉しそうに呼んでくれた君はもういないのかな。

「…もう一度だけ、愛を囁いてほしかったな…」
「…え？」

自分に語り掛けるように、薄く開かれた口から洩れたその言葉は、
幸い誰の耳に届くこともなく消えていった。

「じゃああんたは、どういう意味だと思う？」

私は逆に問いかけることにした。
相変わらず背もたれにもたれかけた両腕に顔を埋めながら、彼に尋ねた。

「1年間付き合い続けてきたあんたにならわかるんじゃない？毎日毎日話していただろ？俺がテスト勉強に集中したい日も、宿題が多くて話す暇もなかった日も。それで「ごめん宿題に集中したいから」なんて言ったらこれ見よがしに顔文字使ってしょぼーんてしちゃってさ。それにつられる俺も甘いんだろうけど。あんたならわかるだろ？俺の性格を、誰よりも、親よりも、俺よりも」

胸からどす汚い何かを吐き出すかのように、ただ私は淡々と表情もなく語り続けた。
それに一瞬傷ついた顔をしてから、クリスはまた俯いた。

私に言われた言葉が痛い？辛い？
でも私はこれよりももっと辛かったんだよ？

君には理解できる？できないでしょ？
ずっと愛してくれて、今じゃ片時も傍を離れることができないほど執着してしまったあなたに、ある日急に理由もなくフラれて、「新しく好きな人ができたから」って、私はいつの間に二人の仲を引き裂いた悪者になってて。
すべて失った。
私は、私であるものも、私でしかなかったものも。

それとも、もともと持っていなかったんだっけ？

「…今から、死ぬってこと…？」

か細い、震えた声が私の耳に飛び込んできた。
顔を上げれば、手のひらが白くなるほどきつく拳を握っている彼の姿が目に映った。
今度は、ちゃんと目が合った。

「っ…」

こんなになっても私、まだ愛したりなかったんだ。

「……なぁ。」→←「幸せを全部、ありがとう」

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