。 ページ39
そして、俺が日記を書きはじめてしばらくたった、ある日のことだった。
「…こんにちは、そらる」
「A……?」
そこで見たAは、ずいぶんとやつれた顔をしていた。いつも太陽さえも喜びそうな声だって、沈みかけている。
どうしたんだろうか。
「どうしたの?」
率直に聞いてみる。
「…………えっ、と、」
なんなんだ。はっきりいってほしい。
もじもじし始めた彼女に少しだけ腹が立つ。
そんなに俺は信用できないのか?
なんて拗ねつつ、彼女が告げてくれると信じて待った。
「おとう、さまが……」
「おとうさま?」
「わ、わたしが、いつもここに来てるの、ばれてしまって、それで、……」
ぶるぶると体を震わせて、彼女の言葉を聞く。
「あっ、……えっと、……前、そらるが私とお相手の婚約を、破棄してくれたじゃない?」
「うん」
いっきに話が変わった。
それが何か関係しているのだろうか。
「その、お相手のかたは、結構いい家柄のひとで、私の家を栄えさせるのに婚約したらしいの」
いわゆる政略結婚ってやつか。
まあ、最近の貴族なんてそういうことを考えて……
「で、でもね、破棄したあと、お父様が怒って、私を叩いたの」
「…………え?」
え、だって、だって。
婚約破棄は、彼女を喜ばせたくてやったのに。
Aを、苦しめた?俺が?
願い事、叶えたのに。
「どうするんだって、どう責任とってくれるんだって、上手く立ち回れば相手を落とせたのかもしれないのにって」
そんな。
俺のせい?俺が、俺のせいで……。
顔が真っ青になる。
どうして、どうしていってくれなかったの?
俺の力を使えば、父親なんて……。
「そこからお稽古とか厳しくなったわ。お父様の気持ちに答えようって言う気持ちも反面、そらるに会いたいって毎日思うようになって、」
「そして今日、出掛けようとしたときに見つかったの」
「「何処へ行くんだ」って聞かれて、この事は秘密だったから、言えなかった」
「そしたら叩かれて、軽い軟禁状態にされて、なんとか逃げ出してきたの」
……そんなことが、あったんだ。
だから彼女はこんなに、こんなにも暗い顔をしてる。
どうして、俺はいつもこうなんだろう。
ただ大切な人といたい、そう思うことが罪だと言わんばかりに、大切な人は苦しめられていく。
真冬だって、戦争にいったきり帰ってこない。
彼女も、そうなんだ。
そして翌日から、Aは来なくなった。
233人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - とてもよかったです!その後話がもっと欲しい! (2021年9月26日 13時) (レス) @page42 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
しろむ(プロフ) - 2ヶ月ほど占ツクを離れていたら、完結していてビックリです!うぐいすあんさんの作品大好きです。今回も素晴らしい小説ありがとうございます (2020年1月31日 21時) (レス) id: 3eaa2e0c73 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - すばるさん» 私もすばるさん好きです〜!そらるさんの可愛さを最大限引き出せましたかね!?こちらこそ読んでいただきありがとうございました! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - 雨月冷さん» いつもありがとうございます!優勝できましたイエーイ()今回はほんわか系を書いていたのでどうしても過去編がシリアスになってしまいました……。はい!楽しみにしていてくださいね!ご満足できるような作品を作れるよう頑張ります! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - らfkー(らふきー)さん» ありがとうございまrrrrrrrrrrrrrrrrrrす!過去編はかなぁり凝っているので、泣いていただくほどのお話ができてとても光栄です! (2019年12月19日 13時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鶯餡 | 作成日時:2019年11月10日 22時