30 ページ30
「____浦田くん」
「なんですかぁ！？」
人混みの中、俺と浦田くんは歩いていた。
そして、俺は立ち止まる。
彼の名前を読んで、彼も立ち止まった。
少し遠くにいるので、かなり大きめの声で言わないと届かないだろう。
「___Aは？」
簡潔に。ただ一言だけ。
それを彼に問い掛けた。
次第に彼の顔は真っ青になる。
Aがまた迷子だなんて、大問題だし、真冬が見逃さないに決まっている。
「___え、ちょ、う、嘘だろ？」
「嘘じゃないよ。Aの姿が見当たらない。気配すら感じないもん」
「おいおい……じゃあ、一旦噴水広場に……」
焦った浦田くんは、俺の横を通り過ぎようとする。
そんな彼の手首を、パシッ、と捕まえた。
「そ、そらるさんっ！？」
「Aはもうこの周辺にはいないよ」
「は？な、なんで……」
足を動かし、方向転換する。
浦田くんの方を向いて、青い瞳を細める。
にっこり、と頬を緩ませて笑った。
「___俺がどれだけAのこと好きか、わかる？」
「は？え、ど、どれだけって……」
「半径3キロ以上ならわかるようになってんの。ずっとずっと追い掛けてたからね」
そう。
全てはAの後ろを守るため。
隣はもうとられちゃってるから、影ながらAを守らなきゃいけない。
伊達に何年も医学に励んでないからね。
彼女の気配、姿、匂い、呼吸の音、心臓の音、声。ずっとずっと感じてきたから。すべて愛しくて、ずっと忘れないようにしてきたから。
「__それじゃあ三キロ以内にいないってことは、Aは人通りが多いここら辺にはいなくて……」
「そう。じゃあどうして人通りが多いところにいないのかな？」
またにっこり、彼に問いかける。
浦田くんは、察しがいい。きっとわかるだろう。
そう思っていると、彼はすぐに顔を青く染めた。
「____まさか……？」
俺は浦田くんに向けて、また微笑む。
そして、橙色に染まった空を見上げた。
「人々はそろそろ、上を見始める。はなびってやつだっけ？それを狙ったんだろうねぇ」
「おいおい……もう確定じゃねぇかよ……」
「ふふっ、そうだね」
浦田くんは冷や汗を一滴垂らしながら、苦笑いをする。
そんな姿がすこし面白くて、クスクスと笑った。
そして____
「___俺の大事なAを盗ったんだ。
絶対に許さない」
思いの外、無意識に低い声が出る。
拳をぎゅっと握りしめて、上を見あげるしかできなかったけれど。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 778人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ - とてもよかったです！結ばれたあとのお話が欲しいです！ (2020年1月15日 20時) (
レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - mokoさん» ありがたいです……！！！ですけど、きちんとお目目休めてくださいね！……ありがとうございます！！頑張ります！(Ｏﾟ皿ﾟＯ) (2019年10月3日 23時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
鶯餡(プロフ) - 絆さん» はい！やから始まってので終わる鶯餡です！ありがとうございます！！！！私ハッピーエンド主義者なので、そこ思いが伝わっていましたらとても幸いです！はい！頑張ります！(返信遅れて誠に申し訳ございません……) (2019年10月3日 23時) (レス) id: 6bb0fe0dd0 (このIDを非表示/違反報告)
moko - 最初から最後まで１日で読みきってしまいましたww次の日学校なのにオールしましたwwすっごい面白かったです！これからも頑張ってください！応援しています♪ (2019年9月30日 5時) (レス) id: 711f63988a (このIDを非表示/違反報告)
絆 - やからはじまってので終わる鶯餡さん！！鶯餡さんの作品大好きです！！鶯餡さんの作品はどの作品を読んでいても心が暖かくなります！これからも楽しみにしています！無理はなさらないでください！ (2019年9月7日 19時) (レス) id: da343c4ed4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
