方舟に乗って。 (ページ1)

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心地の良いページ1

――カランカランカラン、と、朝を知らせる音が鳴る。

聞き慣れたそれに、私は欠伸を噛み殺しながら、重いまぶたを上げて背筋を伸ばした。

ぴったり6時。施設(ハウス)の朝は鐘の音で始まる。

「おはよう、A」
「おはよう。アンナ」

「A、おはよー！」
「おはよう」

いつもの白い服に着替えて騒がしい廊下を通る。

眠い目をこすりながら、歩く度にかかる挨拶にひとつひとつ返事をして、食堂に繋がる扉に手をかけた。

ギィ、と軋んだ音が鳴る。

それと同時に、ふわりと美味しそうな温かいかおりが鼻をくすぐった。

「あ、おはよう、A」

扉の音で気が付いたのか、食器を持ったノーマンが空いている手をひらりと軽く振る。
それに続いて、もうひとり、レイも「おはよう」と呟いた。

「おはよう、ノーマン、レイ」

手を振り返しながら、くあ、とひとつ欠伸をして二人にのそのそと近寄る。

その姿に、二人は「大欠伸かよ」「眠そうだねぇ」と面白そうに笑った。

　性格も、年齢も、肌の色もさまざま。
　私達に血の繋がりはない。
　――でも。

「ほっはよー！ノーマン、レイ、A！」

明るい声を響かせて、フィル達と一緒に楽しそうな表情を浮かべてエマが食堂へと入る。

「おはよう」
「おはようエマ」
「ほはよ(・・・)ー、エマ」

それに答えるように順番に挨拶を返すと、最後のわざとらしいレイの返しにガンッとエマが衝撃を受ける。

「朝から元気だなぁ、エマは。私まだ眠いよ」
「まだ朝ごはん前なのに」
「お前歳いくつだ？ 5歳？」
「3人と同じ11歳！！こんなだけど！」

「レイの意地悪～！」とムッとしてエマが叫ぶ。
その様子に、また笑みが口角に浮かんだ。

　――繋がりがなくたって、みんな私の大切な家族。
　大切な施設(ハウス)。
　かけがえのないもの。

「時間通りね」
カランカラン、とママがベルを揺らす。
それを合図に胸の前で手を組んだ。

「いただきます」

　――これが私の、大切な日常。