31話 ページ31
「勝手に連れてってんじゃねぇよ。こいつの世話は俺がする」
キヨ兄ちゃんの凛とした声が神社に響く。
フジさんがキヨ兄ちゃんに言葉を投げかけたが、キヨ兄ちゃんは私を抱いたままさっさと鳥居をくぐり神社を走早に出ていく。
私も急いで足を動かすけど、生憎キヨ兄ちゃん程の足の長さを持ち合わせていない。
度々躓きそうになる。
キヨ兄ちゃんはそんな私を気にしてないようで、お祭りの人混みを睨みつけている。
そんな時だった。前から走ってくる子供が私目掛けてぶつかってきた。
「あっ、ごめんなさい!」
急いでいるのか子供は脱兎のごとく姿が見えなくなってしまった。
「大丈夫か?」
と、キヨ兄ちゃんが私にきいてくる。
えっと…これは…見事に浴衣が乱れている。
キヨ兄ちゃんに視線を合わせると、キヨ兄ちゃんは視線を下に向けた。
キヨ兄ちゃんは慌てた様子もなく、屋台の隙間を抜け人の少ない夜道へと私を歩かせた。
「直してやるから一旦帯外すぞ」
と同時に背中の帯に違和感。
きつく縛っていた糸が解けたような。
慌てて胸を抑えたけど、キヨ兄ちゃんは私の腕を掴み私の顔を覗いた。
「邪魔。大人しくしてて」
キヨ兄ちゃんの長いまつ毛が伏し目がちに私の胸元を見ている。
少し抵抗すると掴んだ手が強く押さえつける。
「じっとしてろって」
「でも見えちゃうから…!」
「見てもなんも思わねぇよ」
とキヨ兄ちゃんは少し荒々しく腕を押さえつけると片手で浴衣を直し始めた。
キヨ兄ちゃんは、私をみてもなんも思わないんだ。
ゆっくりと力が抜け、キヨ兄ちゃんに身を任せる。
キヨ兄ちゃんの腕の拘束が無くなり動くキヨ兄ちゃんの手だけを見ている。
そして腰に帯が巻かれ、締められる。
「うし出来た」
「ありがとう」
「んじゃ、まだ間に合うから花火見てこうぜ」
キヨ兄ちゃんは手を出し、私を待っている。
ごめんキヨ兄ちゃん。
「帰りたい」
「え?」
「人混み、疲れちゃった」
キヨ兄ちゃんは出した手を引っ込め頭を抑えると、そうか…と呟いた。
「わかった。帰ろぜ」
ニッと笑うキヨ兄ちゃんに、きゅっと胸が締め付けられる。
私、なにしてるんだろう。
キヨ兄ちゃんに嘘ついて。
せっかくの花火大会なのに。
キヨ兄ちゃんは私と手を繋ぐと駅方面へと足を進めた。
泣くな。泣くな。
キヨ兄ちゃんにバレるな。
「なあ」
キヨ兄ちゃんは振り返らず口を開いた。
「今日楽しかったか?」
「うん、とっても」
そうかとキヨ兄ちゃんは呟いた。
350人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「キヨ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
*:まりな:*(プロフ) - 夢吏ちゃんさん» レスありがとうございます!通知溜まりすぎで…完結した時すぐに見れなくてごめんなさい!お気に入り作者にも登録しました!…結構前だけど…。これからも頑張ってください!1ファンとして応援してます! (2020年5月26日 16時) (レス) id: ce0c123210 (このIDを非表示/違反報告)
夢吏ちゃん(プロフ) - *:まりな:*さん» ありがとうございます…!!えへへそんなに褒めて貰えて嬉しいです!ありがとうございます!次作でもお会いできたら嬉しいです! (2020年5月25日 17時) (レス) id: 83cad32c9a (このIDを非表示/違反報告)
*:まりな:*(プロフ) - わああああ!完結おめでとうございます!はぁもう…泣きました。(これほんと)タメ口やばいと思いましたか?私は思いました。知らねぇよ。いやー、なんかもう…満足です!作者さん!愛してる!ぶちゅ (2020年5月21日 23時) (レス) id: ce0c123210 (このIDを非表示/違反報告)
夢吏ちゃん(プロフ) - 甘党。さん» 初めましてコメントありがとうございます!ずっと見て頂いてたんですね…!甘党。様が見て下さっていた1hitが凄く励まされました…!次の小説も近々公開しますので…!自作でも応援のほどよろしくお願い致します! (2020年1月12日 4時) (レス) id: 83cad32c9a (このIDを非表示/違反報告)
甘党。(プロフ) - 完結おめでとうございます…!今までコメントはしなかったんですけどずっと見てました!次の小説も全裸待機させていただきますね^ ^ (2020年1月5日 10時) (レス) id: 93d0b6d41e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夢吏ちゃん | 作成日時:2019年5月6日 10時