過去語りて ページ10
「……それ以来、何百年かはずっと大人しく引きこもってて……学クンに出会うまで誰かと契約しなかったのも、失うのが怖かったからってのもあるかナ」
紫ババアの話にかこつけた自分語りを終えて顔を上げると、いると思っていたはずの案内人の姿が消えていた。ボクの長ったらしい話に飽きてしまったのかな、と思いながら伸びをすると、手がコンクリートの壁とは違う感触の何かに当たる。
振り返ると、何故か彼女はボクの背後に立っていた。
「……何してるの？」
「ずっと話すのに夢中になってたから、横からいなくなったらいつ気づくのかなって思って」
一体誰にこんなことを学ぶのだろうか……こういうユーモアは嫌いではないが。
「ボクの話、つまんなかった？」
「……ううん」
「そっか」
忘れっぽい案内人のことだから、きっとこんな長い話なんて覚えていられないだろう。けれど、霧雨亡霊区域自身は内部で起こったことを全て受け入れ忘れないでいてくれる。少なくとも、ボクはそう信じている。
「なんかさ、キミといるとついつい長話しちゃうナ」
「赤マントさん、ボーダーメーカーのみんなと話すの好きだもんね」
「まあナ。みんなと沢山お喋りすれば、その分みんなの記憶に残りやすくなって……ボクのことを思い出話としてまた別の人に話したりして、ずっと覚えててもらえると思うから」
「そうなの？」
「うん。ボクはムラサキさんや入鹿島のヒトたちのことも、今まで会った他の都市伝説と人間のことも、全部覚えてたいなっておもってるんだけど、ただ会っただけの相手よりたくさん話した相手のことの方がずっとよく覚えてるからナ」
案内人ちゃんにとって、ボクはどんな存在として記憶されているのかな？
ボクがこの区域の中で消え去ってしまったとしたら、この世に残るボクの痕跡は霧雨亡霊区域の記憶だけになるのだろう。その痕跡さえも、霧雨亡霊区域が忘れ去られて消えてしまえば、全て存在しなかったことになる。
「キミは、ボクのことをずっと覚えててくれるかナ？」
「……うん、頑張ってみる」
「そう言ってもらえたら嬉しいナ」
冷たい雨は音もなく降り続いている。
真っ赤な傘の下で、ボクは小さく呟いた。
「……ボクは忘れないよ。どれだけ雨に打たれようとも、どんなに時が経とうと、キミのことは絶対に覚えていてやる。ボクだけは……」
ラッキーカラー
あずきいろ
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