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ボクは戦う力なんてなかった。
けれど、彼らはそんなボクのことさえこの世にあるべき存在の一人として受け入れ、ボクを守ろうと戦っている。急に飛び出してしまったことを、謝らなくては……
突然、ムラサキさんの声が響いた。
「洋輔!!!」
見ると、先ほどまで優勢だったはずのムラサキさんが「奴ら」に境界の裂け目へと引きずりこまれようとしている!彼女にほとんど追い返されて周囲に残党はいないが、「奴ら」が最後の足掻きとして彼女を道連れにしようとしていたのだ。
「……ッ、ムラサキさん!」
「アカ!……アタシのことはほっときな!コイツらはアタシが抑えとくから境界を閉じろ!」
「でも!ムラサキさんがいなきゃヤダ!」
ボクは思い切って彼女の体に飛びつき、思いっきり引っ張り上げた。だがか弱いボクの力では「奴ら」の力に競り負けボク諸共向こう側へと連れ込まれてしまう。
「奴ら」に呑まれ境界の向こう側へ触れる……その瞬間、ボクを得体の知れない感覚が襲った。
恐怖とも怒りとも憎悪ともつかない、不快な感情の塊のようなもので……
それから暫くのことはよく覚えていない。
……
覚えているのは朝日の中倒れていた洋輔の姿。それから、傍に散らばる鏡の破片。
「奴ら」も境界の裂け目も、ムラサキさんも……みんな、初めから存在しなかったかのように消えていた。
「……洋輔?」
「……アカ、なのか?」
ボクは頷いたが、洋輔はその姿を見ることもなくその後返事もしなかった。
境界の裂け目を塞ぐ境界標の仕事は終えられた。けれど、途方もないものを失ってしまった。
ボクが無力であったから?
ボクにヒトと契約してもらえるだけの実力がなかったから?
夜が明けても帰ってこないボクらのことを探しにきた村人たちの足音が聞こえた。ボクは彼らに顔向けできなくて、そのまま島から逃げるように去ってしまった。
ラッキーカラー
あずきいろ
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