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節句の時期は陰陽のバランスが崩れたりして境界の裂け目が開きやすいという。その日もきっとその影響があったんだろう。

いじけて屋敷を飛び出し、入鹿島の人気のない海岸でぼんやり月を見ていたボクは、急に何かの気配を感じた。ふっと周囲を見回すと、真っ赤な目をした黒い人間のようなものが……今までに見たこともないような数の「奴ら」が周囲に現れていた!
ボクはとっさに助けを呼ぼうとしたが、ムラサキさんたちに気まずさを感じて誰のことも呼ばなかった。たとえ契約が無くとも、ヒトと繋がることで得られる武器が無くとも自分は立派な都市伝説なのだ、一人でも戦える。無謀にもそう信じてボクは「奴ら」に立ち向かおうとした。

「赤い紙が欲しいか、青い紙が欲しいか!?」

ボクの都市伝説としての力は「赤と青の二択を訊ね、返事をした相手を殺す」ものだと思っていた。だが、「奴ら」には通用しなかった。

「オ、オイ!返事しろ!」

「奴ら」はただ月光に照らされ蠢きながら、時折ヒトの声と思しき音を発している。

「おまえ、は、おま、えが……お、まえ、は……」

「ナ、なんだよ!ボクが欲しいのか!?ヤダヤダヤダ!!」

ムラサキさんから「奴ら」はヒトの記憶や夢を喰らう化け物だと聞いていたけれど、ボクは野良の都市伝説であったからか、記憶を喰われることもなく、ただ「奴ら」はボクを取り囲みじりじりとこちらに迫ってきていた。そのときだった。


「アカ!よくコイツら惹きつけといてくれたね!あとはアタシらに任せな!」


村の方からムラサキさんと洋輔が颯爽と現れた!


「ムラサキ、境界はあの岩の上だ!」

「あいヨ!」


二人はいつものように手慣れた連携で「奴ら」を威圧する。広げた紫色の扇子を一振りすれば、起こした風が敵の一軍を投げ飛ばし、彼女が舞うのに押されるように境界の内側へと戻されていく。

「アンタたち……紫じゃないネェ。アタシの可愛い弟子をイジメた上に紫じゃないときた!肝抜かれたくなきゃさっさと自分の領域に帰りな!」

ムラサキさんは身勝手な理由で飛び出していったボクのことを可愛い弟子だと呼んでくれた。その戦う姿はいつになく凛々しく見えて、同じ厠の住民とは思えないほど。ボクが彼女と同じようにヒトと契約するなんておこがましいとさえ感じてしまった。

「アカ、大丈夫だったか?」

「ウ、ウン……」

洋輔はボクを抱き上げ安全圏へ連れ出すと、さっと駆け出し境界の裂け目へと向かった。

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作者名:キューブ | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2023年12月9日 3時

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