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「ボーダーメーカーの味方……てことは、紫ババアさんも誰かと契約してた都市伝説だったの?」
「うん。ムラサキさんと契約してたヒトが、ボクが初めて出会ったボーダーメーカーだったんだ。そのときは……ボクは何の力にもなれなかったんだけどナ」
…
ボクがこれまで出会ってきたボーダーメーカーたちのことは、一人一人誰がどんなふうだったか今でもはっきり言えるくらいに覚えている。……この区域の中で頭を冷やしている間に朧げになってしまった記憶もあるが。
それでも、ずいぶん古い記憶のはずなのにムラサキさんの契約者のことはずっと印象に残っている。
名前はニ宮洋輔といっただろうか? 彼は生真面目な青年で、何をするにも欠点の全く見えないようなヒトだった。そのときのボクが幼かったからそう見えていた……というのもあるかもしれないけれど、それを差し引いても人格者というべきヒトだった。
入鹿島という離島を仕切る一族の生まれであり、島の守神のように祀られていた紫ババアさんと契約して「奴ら」を追い返し境界を管理するのを仕事としていた。
「ま、アタシみたいなのは珍しいかもしれないネェ。なんせ都市伝説はヒトの噂で成り立つ代物、いつどこに現れるかなんて気まぐれモン、一処に百何年も留まるようなのはそう多くないんじゃないのかい?」
とムラサキさんは語っていた。実際、東境で長らく都市伝説たちの面倒を見て分かったことなのだが、仕事中に不幸にも契約者が命を落としたり依代が壊されたことで契約という縛りを失い行方知れずとなる都市伝説もかなりいる……
そんな中で、誰かと契約を交わしながらもそれを引き継ぎ境界標の職務を全うするムラサキさんとニ宮家は異色であったけれど、そのあり方そのものが彼らの仕事ぶりの優秀さを示していたのだろう。
ムラサキさんの契約者であった洋輔は、相棒を信頼してか、突然現れたボクのことを優しく受け入れてくれた。
その当時のボクは、都市伝説はヒトを襲う存在なのだと、ボクはヒトとは相容れない存在だと無自覚のうちに思っていたように思う。けれど、彼らは
食べる必要もないのにわざわざボクに客用茶碗でご飯を出してくれたし、皆と同じような寝床を用意してくれた。
彼らとの暮らしでボクは、ヒトの優しさだとか温かさを知った。
ラッキーカラー
あずきいろ
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