境界の果て【派生作品】 (ページ5)

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紫鏡ページ5

トイレの怪異、という話に引きずられるように、ある都市伝説のことを思い出した。……本当はこのヒトの話をメインに話そうとしていた気がするが、それはそれとして。

「花子さんは凄く有名だけど……紫ババアって知ってる？」

「紫……赤マントさんと青マントさんのフュージョン？」

「どうしてそういう発想になるかナ……」

そういうどこか不思議なところが可愛らしい点でもあるのだが。
ボクはふっと一呼吸おいて、懐かしい都市伝説のことを話し始める。

「名前の通り、全身紫の服着た老婆……って言っても本人は若い美人で『ムラサキ姐さん』とかって呼ばないと怒るんだけどさ」

「その人も知り合いなんだ」

「そうだよ。ボクのトイレ仲間としての先輩で、ボクがボーダーメーカーの味方するようになったきっかけ。師匠みたいなヒトだったナ」

…

ボクが紫ババアと出会ったのは、トイレがまだ厠とかなんて呼ばれてぽつんと離れに備えられていた頃の話。その当時のボクは、話ができたばかりで今よりずっとあやふやで……あやふやなのは今もずっと変わらないけれど、ともかく自分がなんなのかさえよく分からないでいる状態だった。
ひとりぽつんと狭くて暗くて不愉快な臭いに満ちた場所で、何か成すべきことがあったはずだと、けれどそれが何なのか分からないままぐるぐると思考を巡らせるばかりのボクに、

「アンタ、もしかして新入りかい？」

と声をかけてきた不思議な美女。
ムラサキと名乗った妖艶な彼女は紫煙を燻らせながら、品定めするかのようにボクをじろじろ見てきたのを覚えている。

「こんな僻地にアンタみたいなヤツが来るなんてネェ……イヤ、コイツはアタシとの縁があったヤツだからか……」

彼女はボクについて何か知っているようだったけれど、その時はあまり詳しいことは教えてはくれなかった。
その代わり、この世界に生まれてまだ何も知らないボクに、都市伝説が何者かについて教えてくれた。

ボクやムラサキさんは、花子さんや霧雨亡霊区域のようにヒトの噂が形を成してひとつの存在として成立したものであること。ヒトに語られなければ存在できず、自己を確立することもできないことだとかも。

「そうだ、アンタはなんて名前で通ってるんだい？」

「……ボク？……赤い紙……赤半纏……ううーん、なんだろう……」

「よくわからないヤツだネェ。なら、『アカ』ってのはどうだい？アタシはムラサキ、アンタはアカだ」

彼女はボクに名前をくれた。
ボクを今のボクとして成り立たせてくれた、それが彼女だった。