境界の果て【派生作品】 (ページ25)

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外伝：忘れられた傘ページ25

ざあざあと雨の降りしきる中、ボクと契約者の学クンは家路を急いでいた。足元をびしゃびしゃに濡らしながら、明るい調子で学クンが話しかけてくる。

「いや〜、急に雨降ってきたときはびっくりしたっすけど、師匠がいて助かったっす！やっぱり師匠はすごいっすね！」

「あのナ……こんなコトしてるボクが言うのもなんだけど、キミってボクをなんだと思ってるのかナ！？」

「え、師匠は師匠っすよ？強くてカッコいい、何にでもなれちゃう都市伝説っす！」

そう言って彼は上を向いて傘の内側を眺めた。何を隠そう、学クンが差している傘はボク自身……予想外の雨に対して「傘になってくれませんか！？」と頼み込んできたのだ。
都市伝説相手にそんなことをさせるとは図太い精神だが、渋々とはいえやってしまったボクもこの子を甘やかしすぎているだろうか……

「……帰ったら、なんかあったかいモノ用意してほしいナ」

冷たい雨粒は、ばらばらとボクの体に打ちつけてくる。こんなのやってられないよ、と言いたくもなったが、柄から伝わる学クンの手の温もりのせいか、やっぱりボクは彼のことを甘やかしてしまうのであった。
彼の手に握られ揺られていたが、突然彼の歩みが止まった。学クンの前には赤い自販機がひとつ。何か飲み物でも買っていくつもりなのかと思ったが、彼の目は違うモノを捉えていた。

「あれ……こんなとこに傘？すっごいボロボロになってるけど、いつからあったんすかね？」

自販機の横に立てかけられた傘を学クンは手に取った。骨はもう傘の形を成さないほどに折れているし、生地は黒く汚れて擦り切れている。何年も何年も暴風雨に晒されてきたかのようなその傘が無造作に自販機横にあるなんて、確かに不自然だ。
傘について、ボクには思い当たることが一つあった。

「……霧雨亡霊区域について、前に話したこと覚えてるかナ？」

「えっと、一人で傘差して歩いてたら迷い込んじゃうっていう？今は師匠もいるし大丈夫っすよ！」

「今言いたいのはそこじゃなくてナ……出てくるときには、持ってた傘がすごーくボロボロになってるらしいんだよナ。ちょうどこんなふうに……」

もしかしたら、誰かがここで区域に迷い込んだのかもしれない。そして、手にしていたゴミ同然の傘をここに捨ててさっさと家に帰って行ったのだろう。持ち主はきっとすぐに傘のことなど忘れてしまうのだ。彼女がそういう存在であるために。

「なんか、ここにまた置いてくのもポイ捨てみたいで嫌っすね。持って帰ってうちで処分するっす！」

学クンは傘を手に持ちまた歩き始めた。