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ボクは歩いた。
歩き続けた。
歩いても歩いても、景色は全く変わらない。
灰色の空、灰色の壁、灰色の地面、どこまでも続く無彩色の世界。本当にこの先に出口はあるのだろうか？
……出口？
ボクは何のために出口を探している？
「……赤マントさん？」
声をかけられ下を見ると、ボクの腕の中には何故か一人の少女がいた。
この子は……一体誰だ？
「出口に行かなくていいの？」
ボクは彼女のことをそっと地面に下ろし、色素の薄い瞳をじっと見つめてみた。
彼女の目を見ていると、何かこの子がボクにとって大切な存在であったような……そんな気がしてくる。なのに、なぜ大切なのか、彼女と何があったのかは全く思い出せない。繋いだ手は温かく、懐かしさを感じるのに何故なのか分からない。
ボクの記憶は雨と灰色に侵食されて、ボク自身のことさえも全く思い出せなくなっていた。
「出口……」
「案内、頼まれたから」
「……もう、いいよ」
思い出せない記憶なんて、所詮その程度の存在だったということだろう。
仮にこの世界に「外」があったとして、外に出たところで何になるだろうか？有りもしない大切な何かを追うよりは、ここでただ雨に打たれて過ごす方がずっとましなように思える。
「どうせ、何もないんだ」
「……そう」
「だから、もういいんだ」
赤い傘の少女はゆるく握っていたボクの手を離した。ボクのほうに差し出されていた傘はすっと定位置に戻っていき、霧雨がボクの顔を濡らしていく。
彼女はボクのことを見つめていた。
ボクもじっと、彼女を見つめていた。
「……ほんとうに、いいの？」
「ここには何もない、ボクにも何もない……どこまで行っても、何もありはしないんだから」
「わかった」
そう言い残すと、彼女は灰色のビル街の中へ消えていった。
ボクは無色の世界に一人取り残された。
雨はずっと降り続いている。
ラッキーカラー
あずきいろ
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