境界の果て【派生作品】 (ページ14)

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この子はずっと傘を持っていた。血と泥で薄汚れたボクの赤いマントなんかよりもずっと素敵で洒落た鮮やかな赤い傘。
風で飛んでいってしまったのか、我を忘れていた時のボクがどこかへ捨ててしまったのかは分からないけれど、彼女を彼女たらしめる傘はどこかに行ってしまった。

傘を探さないと。

ここの雨はボクの頭を冷やすのにはちょうどいいけれど、この子の体にはあまりに冷たすぎる。ただでさえ消えていってしまいそうな彼女のことだ、こんな雨に打たれていては本当に消えていってしまうかもしれない。

傘はどこだろう。

両腕で抱えた大切な彼女を抱きしめて、ボクは区域の中を歩いていく。灰色の世界にひとつだけぽつんとあるはずの赤い傘。どれほどここが広かろうとも、歩いていればきっといつかは見つかるはずだ。幸いボクはヒトではなく普通の生物でもないから、無限に歩き続けることができる。早くこの子に傘を返してあげないと。

　

傘は見つからない。

　

ボクはひたすらに歩いた。
いくつものビルを通り過ぎて、たくさんの瓦礫を乗り越えてきたけれど、あの鮮やかな赤はどこにも見当たらない。
単なる赤ならボクの手の中に既にある。でもボクが探しているのはこんな古臭い布切れなんかじゃなくてぴかぴかの綺麗な傘だ。ボクもこの子とよく似た赤を持っていたけれど、こんなものじゃ雨粒ひとつ防げやしない。その証拠に、彼女の髪も服もぐっしょり濡れて冷え切ってしまっている。

なにも見つからない。

ボクは歩き疲れて瓦礫の上に座り込んだ。
おかしいな、概念に近いはずのボクがこんなにも疲れてしまうだなんて。ボクの手の中には霧雨に晒され続け、重く濡れた赤いマントだけがあった。めくってみても、そこには何もなかった。
ボクはずっと、大切なモノをこのマントで守ろうとしていた、はずだった。

　

そうか。

結局のところ、ボクでは誰を救うこともできないのだ。

ボクには現世の誰かに必要とされるような価値などないのだ。

ボクはヒトにとって憎まれるだけの存在なのだ。

……憎まれるような価値すらない。

　

ボクは現世に存在してはならないモノなのだから。

たとえヒトの噂がどんな姿を形作ろうとも。

どれほど立派な「名」を与えられようとも。

契約を得てヒトに認められた気になっても。

　

　

　

　

ボクはこの世界の住民の敵だ。