境界の果て【派生作品】 (ページ13)

今日:13 hit、昨日:3 hit、合計:2,034 hit

赤い傘ページ13

色彩のないはずの区域が真っ赤に染まっていた。
あの子の傘を連想させるその色は血の色だった。
雨粒で薄まりながらも広がっていく赤。

ボクの自慢のマントと同じ、

あの子の素敵な傘と同じ、

鮮やかな赤。

「あ……ああ……」

ボクはこの区域の案内人に跨っていた。
ボクの下に横たわる彼女、本来真っ白であるはずの彼女は、ボクのマントを被せたみたいに真っ赤になっていた。
瞳の閉じられた顔だけが、真っ白な頬を保っていた。

ボクのせいだ。

首を切られて真っ赤な血を流している。
白いレインコートも、ちょっと霞んだ色のシャツに可愛らしいスカートも等しくズタズタに切られて赤いまだらの斑点模様になっている。
腹を裂かれて真っ赤な中身をさらけ出している。
引きずり出された赤い心臓は食いちぎられた痕が残っている。

ボクのごつごつとした手指は赤黒く染まっている。

そうだ。

ボクは赤マントだ。

夜道でひとりぼっちの誰かに声をかけ惨殺する……悪辣非道な殺人鬼。

それが本来の「赤マント」なのだ。

ボクはボクたる本分を果たしたまでだ。
人々が血を求める残虐な存在としてボクを語る以上、その噂から生まれるボクも血に飢えてヒトを襲う存在になってしまう。

仕方のないことなんだ。
みんなにはずっと、こちらの姿は後から入ってきた混ざり物の要素だと話していたけれど、こちらの姿が「ほんとうのボク」なんだ。

仕方のないことだから、今までずっと霧雨亡霊区域に助けてもらっていた。
この区域の中ではボクが何をしようと無かったことになる。ボクが暴走するのを押さえつけるのにうってつけの場所だ。

仕方のないことなのに、目の前の光景が信じられなかった。
これは霧雨亡霊区域の付属品であり彼女がどうなろうと霧雨亡霊区域自体にはこれといって影響はないと分かっているのに、彼女をこんなふうにしたことでもう二度と会えなくなってしまうような……そんな気がした。

「ああ……赤い…………キミは、赤くて、冷たくて……キレイだ」

ボクは自然と彼女を抱き寄せていた。
彼女を手放したくはない。失いたくない。忘れたくない。

「…………そうだ……傘……傘を刺さないと……雨に濡れては…………消えてしまうから…………」

降り注ぐ雨から庇うように、彼女にマントを被せてやる。
ボクは彼女を抱えたまま、ふらふらと歩き始めた。

傘を探そう。