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気づけばボクの足元にはおにぎり風の泥団子がいくつも並び、横の地面は泥を掘られてぽっかり穴になっていた。
以前、学クンが「ご飯炊くくらいなら自分にもできるっす!」と言って炊飯器に溢れるくらいのご飯を炊いてしまって、仕方なくおにぎりを沢山作ったこともあったな。その時は冷蔵庫に入りきらない分をみんなに振舞ったっけ……
「こんなに作ってどうするの?」
「いや、なんか手持ち無沙汰だし……」
案内人ちゃんに見守られるボクは、雨が染みて徐々に形の崩れていく泥団子たちを眺めていた。そうだ、ここでは例え何を為そうと全ては無に還るのだ。こうやってボクが泥遊びをした跡も全て……
それでも、この区域の性質に抗ってみたくなって、ボクはすぐそばの案内人ちゃんに声をかけた。
「光る泥団子って知ってる?」
「都市伝説?」
「都市伝説じゃなくって……泥団子にさら粉をかけて磨いたら、つやつやぴかぴかの泥団子になるんだよ。マァ、子どもの遊びみたいなモンだけどナ」
そう言いながら、なるべく砂利を取り除きながら泥団子を一つ作ってみる。なかなかに良いまんまるができた。泥といつものボクがどことなく似ているとは感じていたが、こういう泥遊びの面でも相性が良いのだろうか……
「さら粉って?」
「乾いてて、石ころの混ざってないさらさらの砂だよ」
「なら、ここでは光る泥団子は作れないんじゃないかな。どこに行っても、屋根があってもずっと雨が降っているから……」
そんなことは分かっている。永遠に雨の降るこの区域に「乾いた」ところなんて有りはしない。けれど、それでも、無いものを求めてしまう。
探しにいこうよ、と声をかけたくなったけれどやめた。そんなつまらないものを探すために、この区域を彷徨う無個性な人影の仲間にはなりたくなかった。
「……やっぱりダメかぁ」
ボクは手にしていた泥団子を近くの壁に投げつけた。コンクリートの壁に当たってぐしゃりと潰れた泥団子は、そのうち降り続く雨に濡れて流されその痕跡すら消えてしまった。
ラッキーカラー
あずきいろ
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