泥と戯れ ページ11
霧雨亡霊区域の中では無限に雨が降り続く。そうなると、アスファルトの禿げた地面は乾くことなく湿り気を帯び続け、所々に泥沼のような水たまりを作っている。
ほんの気まぐれで泥に触れてみると、冷たく肌に纏わりついて気持ち悪いような、気持ちいいようななんとも言えない気分になった。ある程度の泥を掬い上げ、ぎゅっと固めてみれば子どもが作ってくるような歪な泥団子ができた。
「何してるの?」
いつものように、音も立てずに案内人ちゃんが現れ、ボクの手の中を覗き込んでくる。
「食べる?」
「いらない……」
まぁ、普通はそう返すだろうな。ほんの少し眉をひそめた彼女の顔が面白くて、ついくすりと笑ってしまった。
「冗談だよ、冗談。ほら、子どもがままごとで作った泥団子食べさせるとかあるし」
「なんだ、とうとうおかしくなったのかと思っちゃった」
「ボクを何だと思ってるのかナ……」
作りたての泥団子を土の上に置き、また新しい泥を掬う。
きゅっきゅと泥を握り締めると、今度はおにぎりのような三角形ができた。
「具なし海苔なしおにぎりも、塩つけて握ったら美味しいんだよナ」
「赤マントさんって、都市伝説なのに食い意地張ってるよね」
「そ、そうかナ……」
言われてみれば、ヒトの理を超えた人外たるボクがご飯を一人前に食べるというのは不思議な話である。話の内容に沿った性質として、子どもやら生き血やらを好んで食す都市伝説もいるけれど、そもそも食事をする必要自体無いはずだ。
とはいえ、契約したボーダーメーカーに勧められて食べたモノが美味しくて食事にハマったり、都市伝説の内容として「元々人間であった」から人間のように食事を楽しむ個体は少なくない。
「人間の食べ物って、かなり美味しいからナァ……またでっかいピザ一気食いとかしたい……」
「……変なの」
「どこが?」
「この中にいるのに、食欲がある人って珍しい、かも。だって、ここにいたらそういう欲求は薄れていくものだから」
「ふーむ……やっぱりボクが都市伝説だから、そういうのも効きにくいのかも」
あるいは、ボクの「生きていたい」という意思が食欲を維持させているのだろうか?
ヒトにとって、食というのは生に繋がる強烈な欲求の一つなのだから。
「キミは何か食べたいモノとかある?」
「特にないよ」
「そっかぁ」
ボクは泥のおにぎりを無闇に増やしていた。
学クン、ちゃんとご飯食べてるかな?
ラッキーカラー
あずきいろ
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