Half step【3】 (ページ9)

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…多分この嬉しいは、私も彼のことが好き、だから。

腕を背中に回されて、彼の心臓に近いところに頭がつく。

「ちょっと！…こんなん見られたらあかんって、」

「そんなん、手繋いで歩いてる時点でバレてる。」

彼が話すと、耳からじゃなくて、彼の身体から直に振動が伝わってくる。

離れたいのに、離れなきゃなのに、
彼の胸の中の温かさを知ってしまった今

離れるのが、寂しい。

「もう…早く家帰ろ？」

たぶん10秒も経ってないくらい。

なのに、とても長く感じた。

「ごめん、寒かったよな。」

ううん、暖かかったよ。

そう素直に言えない私が、首を縦に振ったのを見て、彼は腕を引いて歩き出した。

「Aさん。」

「なに？」

「Aって呼んでもええ？」

マンションの廊下をそんなことを話しながら歩く。

気密性が高いマンションでよかった。
たぶん誰にも聞かれてない。

「いいよ。」

「じゃあ、A、？」

彼が鍵を開けた先には、広い玄関。

当たり前だけど、大吾の靴はない。

「はい。え？なに、」

呼んだだけ？
そう聞こうとした私に重なった声

「キスしてもええ？」

「いい、…え！？」

初チューは、夜景な綺麗なとこでロマンティックになんて憧れに思ってたのに、現実は冬の寒い玄関で、なんて。