Half step【3】 (ページ21)

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「ごめんなさい…急やったから」

「俺もまた、行くなんて思ってなかったんですけどね…」

途中で、話しながらスマホを持ったままだった私の手を優しく引き剥がした。

手の甲側から指先に触れるその動きにゾクッと感じてしまった私は、慌てて引き戻そうとしたけれど、彼の手がその上から覆っていて簡単にはいかない。

そんな私の動揺を見て彼は小さく笑った。

「帰ってきたら、そっちに行かせるんですみません。
…え？…えぇ？
やっぱりかおりさんにはかなわんなぁ…(笑)」

「また伺います。じゃあ、失礼します。」

電話を切って、テーブルの上の私の手のひらに返してくれたスマホ。

「はい。」

「…ありがとう。
かおりさん、…なんて？」

向かい合って座ったばかりに、見つめ合う時間が長い気がする。

「かおりさんにはバレてた。」

「えっ？なんで？…だって昨日はわからんって、」

そう。
どこにいるんやろ？って、かおりさんは不安そうな顔をしてたはずやけど。

「そっちやなくて。俺がAさんの彼氏になったこと」

「はっ？なんで？？」

思っていたより大きな声が出てしまった気がする。

「いやこっちが聞きたい。その反応からすると、Aさん言ってなかったんよな？」

「言え…んよね！？
正門くんなら言える！？弟の友だちと付き合いました、って。家族みんな正門くんのこと知ってるんやで？？」

特に、斗亜には絶対言えん気がする。
まだ、斗亜の友だちのこたちゃんの方が言いやすい、なんでか。

「そっか、そういうもんなんかな〜」

急にぽやぽやしだした彼は、マグカップに口をつけて、あつっ、なんて言ってる。

「そうやけど、…大吾には言った。」

マグカップから、目線だけ私にズラしてしばし見つめ合った後、目を細めた彼は、

「…そっか。」

そう言って、笑った。

「大吾のことはもうええから。
今考えたら、弟でもお互いええ歳なんやから、ちょっとくらい連絡つかんくても、こんな心配することないよね？
私が斗亜に対して、過保護すぎた名残があるだけやと思うから。」

「…けど俺っ、」

「もう大丈夫やから。
やから、正門くんもそんな申し訳なく思わんといて。」

彼さえそばにいてくれたらええ。

先程の彼の顔を思い出しながら、体温の感じるこの手を離したくない、その一心で。

「正門くん、今日は帰らんよね？」

その日、正門くんはうちに泊まった。