Half step【3】 (ページ20)

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「…ごめん、驚くと思ったから」

何秒かだったかもしれないし、数分だったかもしれない。

動こうとしない私を黙って腕の中に入れていた彼が、そう発して、私は初めて彼の顔を見た。

驚いた。
まるで今すぐどっかいなくなっちゃうんじゃないかと思うほど、思い詰めた顔をしていて、それを見たことで私は完全に力が抜けきっていた身体を強ばらせた。

私が彼の顔を見たからか、体を硬直させたからか、彼も反応する。

「大吾のこと、」

「正門くん、！」

遮るように出した声に、なに？と返事した彼

「ごはんは食べた？」

「え、っと、まだやけど、
…朝遅かったから、お構いなく。」

「じゃあ、コーヒーだけ入れる。
とりあえず、そこ座って」

床に落としっぱなしだったインナーを拾って、脱衣場に隠す。

そうやって、他のことをしていると、少しだけ気が紛れた。
次にするべきことも思いつくようになってくる。

一応、私正門くんより年上だし。

…彼のあんな顔、初めて見たし

自分の分と、真っ白のいかにもお客様用です、というようなマグカップをローテーブルの上に置いて、まだ硬い顔をしてる彼に許可をとる。

「先に、かおりさんに連絡してもええ？」

「うん。…待って、俺言おか？」

「なら、あとで代わってもらってもええ？」

『Aちゃん着いたー？』

かおりさんの明るい声は、向かいに座る彼にまで届いていたらしい。

「うん。
あのさかおりさん、急なんやけど、…大吾わかった。」

「東京にいるんやって。」

電話の無言特有の電子音が耳につく。

「ちょっと貸して、」

そう言って、スマホを持った左手を包むように彼の体温が重なって、そのまま彼の顔の右側に付けられる。

「かおりさん？あの、正門です。」

彼にスマホを渡してから、彼の声しか聞こえなくなった。

ということは、かおりさんは電話の向こうで声色を潜ませているということ。

それを思うと、少し苦しくなった。