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「Aさん、これ。」
正門くんは、手元のトートバッグから、大きな封筒を取り出した。
今日は正門くんに指定された隠れ家的なお店
個室ほどではないが、テーブルごとが上手いこと隠されていて隣の組の話し声はもちろん、姿さえ見えない。
おかしいとは思ってた。
彼がこんな大きな鞄を持っているところを見たことがなかったから。
まあ、バンドのお仕事の時はそれなりに大荷物だけど、それでもこんな大学生みたいな、A4サイズが入るバッグなんて、違和感
「なにこれ、」
なんだなんだ、変な契約書じゃなかろうか、とも思えてしまうよく見る茶封筒
開けた中には、クリアファイルに挟まれた、B5サイズに折られた紙
『婚姻届』
茶色で印刷されたそれは、テレビでしか見たことのないもので、ドクンと大きく心臓が鳴った。
驚いて彼の顔を見ると、驚いた?とでも言いそうな顔でこちらを見ていた。
「ちゃんと見て」
そう言われて彼が指さしたところには、
『夫になる人』の欄に、正門くんの名前が彼の字で書かれていて、
「どういうつもり…?」
からかっているのか、おどかしただけなのか、単純にどんなつもりなのか、知りたくてそう聞いた私に
「結婚、しよ。」
そう目を細めて返事した。
「この前、電話で言ってたでしょ?
『しよ、って言ったらどうする?』って…」
「…言った、…けどあれは、間違いというか…本気やなかった、と言いますか…」
勢いで言った、とか
あなたと籍には入りたいけど恋人にはなれそうにない、なんて
言えそうになくて、下手くそに誤魔化す。
「でも俺はそれくらい本気、ってことやから。」
「…でもって、これは」
「とりあえず、Aさんがそれ預かっといて。」
アホなのか…
私が勝手に妻になる人の欄に記入して提出したら、彼の戸籍に私は入れるし、でもそれって
そもそも、もし私がこれを誰かに渡したら、正門くんはどこの誰ともわからない人と結婚できるんだけど
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みさき(プロフ) - こちらも一気に読みました!楽しませてもらってます。 (2021年3月18日 16時) (レス) id: 58a6144e55 (このIDを非表示/違反報告)
ぱ た(プロフ) - 続き気になります ‥ ! (2021年2月23日 23時) (レス) id: 99d7cdb867 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆう | 作成日時:2021年1月15日 17時