Half step (ページ32)

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なんて、そんなことあるわけないので、めちゃくちゃ気まずい中帰る支度をする。

後日、お詫びの品を正門くんに届けるか…

そして、本当にそれっきりにして、もう二度とあの店に飲みに行きはしない。

今度こそは！！！！

「あんさ、」

「はい？まだなんか…」

「さっきの」

「さっき…？」

「『お母さん、』って言ってたヤツ。」

この際、リビングのソファで寝てたはずの彼がなんで部屋にいたんだとかはどうでも良くて、

言いたくないこと。

…いや、言えないこと。

「あぁ〜、寝言？2、3日に1回は必ず
…お母さんが出てくる夢。」

「…いやあれは寝言ってレベル

「やから、今日はその日やったみたい。
迷惑かけて、本当にごめんなさい。」

言ってもわかって貰えないことは、言えない。

おかしいって、自分でも気づいてる。

斗亜だって、夢なんか見ないって言ってた。

ただ私だけ、あの時からずっとそのまま。

夢は、日常生活の綻びだって聞いたことがある。

自分でも気づいていない潜在的なことが出てくるものらしい。

ちゃんとコントロール出来ているつもりでも、

こんなところでボロが出る。

私はきっとそんな人間。

「オカンのこと、避けてる訳やないから。」

デスクチェアに腰掛けてた彼が、唐突に立ち上がりそう言った。

「はぁ？」

「男ってそういうもんなだけ。
マザコンって言われんように、まあ…意識して距離とっとったけど。」

それだけ言うと、部屋を出て行こうとした彼を慌てて呼び止め、洗面台だけ借りた。

当たり前だけど、メイク落としなんてないから、鏡で見て驚くことしか出来なかったが、まあなんとかして。

急いで帰ろうと、お邪魔しました、と家を出たところまではまだマシだった。

ちょっと待って、

「ここどこ…？？」

と、スマホで地図を開けると、まさかの職場の最寄りの隣。

つまり彼らの住処はそこそこ立地の良い、高層マンションだった。