Half step (ページ19)

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「あの、」

「…私ですか？」

かおりさんと話してたチケットの人。

「俺のこと、覚えてないですか？」

「え？、」

どこかで見たかと言われればそんな気もするし、そうやない気もするし

「いや、ちょっと…」

「前にお店で大吾と喧嘩しとったんちゃう？
あ、人間違いやったら、ごめんなさい。」

「……店員さん？」

そう言うと、ぱあっと明るくなる顔。

「そう。あ、そうか、やっぱり。
お姉さん、やったんですね…」

「戸籍上は俺ら兄弟やないから、俺は別に弟やないし。」

会話に横から入ってくるの、構ってちゃんかよ。

「だそうです。」

仕方なく訂正してあげたら、気分良さそうにソファにふんぞり返る。

「じゃあ、名前で呼んだらええんですかね？
あ、その前に。俺、正門良規って言います。」

「正門、さん……あ。」

正門って、佐倉ちゃんが言ってた名前。

という事は、もしかして、勝手にあいつに名前を利用されてるのはこの人か。

この本物の正門さんは、それに気づいてるんやろうか。

「どうかしました？」

「いや、ほんとごめんなさい。
私は、西野です。西野A」

「そんなに謝ることないのに？
えっと、Aさん、」

じゃなくて、
ごめんなさい、私の訳アリの弟がご迷惑を…

の謝罪。

そして、この人はなんの楽器を担当してたんやろう…
それくらい、ヴォーカルしか、見てなかったことを反省。

「すみません、本当ならメンバーの名前くらい覚えてきますよね…」

「別にいきなり連れられてきたんならしょうがないのに」

「次回はちゃんと覚えて来るんで！」

そう言ったら正門さんは頬を緩めて笑っていた。

楽屋を出る時、キーボードの小島くんが外まで送ってくれた。

「じゃあなんかあったら、斗亜、連絡してな？」

名前は聞きそびれたけど、残りのベースとドラムの2人も愛想のいいいい子だったし、小島くん、正門さんはトップクラスの愛想の良さだ。

なのになんであいつは…！

と思いながらも、ライブ中は、そんな素振りなかったなと、やはりライブの余韻に浸っていた。