救国の聖女の鬼退治

子供たち ページ15

｢私たち、鱗滝さんが大好きなんだ｣
真菰の、口癖だ。
錆兎と真菰は兄妹ではない。
二人は孤児だったところを鱗滝に育ててくれたらしい。
｢子供たちはまだいるんだよ。いつもAを見ているよ｣
｢はぁ…｣
その子供たちは見えないが、どうにも生者の気配がしない。
みんな、手鬼にやられているから。
(……手鬼)
手鬼自体もまた可哀想ではあるが…これはなんとも複雑な気持ちだった。
｢全集中の呼吸はね、体中の血の巡りと心臓の鼓動を速くするの。そしたらすごく体温が上がって、人間のまま鬼のように強くなるの。とにかく肺を大きくすること。血の中にたくさんたくさん空気を取り込んで、血がびっくりした時、骨と筋肉が慌てて熱くなって強くなる｣
｢どうやったらできますか？｣
｢死ぬ程鍛える。結局それ以外にできることないと思うよ｣









あれから、肺と心臓が破けそうなくらい、刀を振ったがそれでも錆兎には勝てない。
ただし、半年までは。
ある日、錆兎は真剣を持ってきた。
｢半年でやっとまともになってきたな｣
｢今日こそ勝ちます｣
それは一瞬の出来事だった。
Aの刀の先が、錆兎よりも先に届いた。
錆兎の狐の面は、綺麗に真っ二つに切れた。
その顔は、嬉しそうな、泣きそうな…安心したような笑顔だった。
｢……勝ってね、A。アイツ(・・・)にも｣
濃霧が一瞬で真菰を包み、晴れたと思ったら消えていた。
更には気がつくと、錆兎も消えていた。
目の前には、綺麗に真っ二つに割れた岩があった。

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