イヤーマフの中で２ (ページ9)

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忘れかけた人ページ9

阿部side

あれからもうすぐ、3年が経つ。

手話もだいぶ忘れたし、読み取れなくなった。

彼女のことを忘れたことになりそうで、忘れたくなかったし、読み取れることが出来なくなったのは悲しかったけれど。

無理矢理でも忘れようとしないと、Aさんのことが吹っ切れないから。

それでも毎週水曜日の6時には、彼女が来ることを願ってカフェに行っている。まあ来ないけれど。

どうしようかなー、もう好きな人とか出来なさそう。

　

今でも大事なのは彼女で、彼女を超えた存在の人は誰もいない。

今日はいつも通り、ニュース番組の企画でロケに来ている。

ここなんか見覚えあるよね。

『あぁ、Aさん家の近くかも。』

初めて行ったときに、風が気持ちよくて、太陽の光が眩しくて。

大好きだったなあって、今はいい思い出。

近くの広場には、家族連れの人とか、動物を連れて遊んでいる人とか、たくさん幸せそうな人がいっぱい。

彼女とうまく行っていたら、こうなっていたかもしれないって思っちゃうけど、許して欲しいな。

いつも通りロケは順調に進んでいって、
人はどんどん減っていく。

Aさん、いないかなと淡い期待を抱いている自分がバカみたいで。

ロケに集中できない。

俺のそんな思いは届くはずもなく、ね。

「お疲れ様でしたー」

『お疲れさまでした、ありがとうございました、』

ロケは夕方6時くらいに終わって、いろんなところを巡ったあとまた広場に戻ってきたらいるのは数人だけ。

冬だからあたりは真っ暗で、星が輝いて見えた。

「ああ、すみません！」

片付け中だったディレクターの大きな声に驚いて、後ろを向いた。

どうやら撮影機材が近くの人の方へ倒れてしまったみたい。

お手伝いと、大丈夫かなという心配で機材が倒れてしまった方へ向かった。

『あ、』

『A、さん、』

そこを見れば、慌てて膝をついて機材の片付けを手伝い、イヤーマフをした大好きな人の姿があった。