イヤーマフの中で２ (ページ5)

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自分の本心に従うままページ5

Aside

心臓がはち切れそうって、こういう意味なのかって今更分かる。

今の時刻は5時半を指している。

仕事をこれまでにないくらい早く終わらせて早歩きでアンティークに向かった私は、コーヒーを一杯頼んで気持ちを落ち着かせているだけ。

　

本当なら、女の子の方が後に来るほうが可愛らしいスタイルなんだ、って分かってるけれど行動には移せない。

“好きです”

そんな手話を並べてみる。

こんな本心のまま、伝えたなら、

“俺もです”って返してくれる？

『いやいや笑』

“Aさんの気持ちはよく分かりました。でも、ごめんなさい”って振られる？

後者の方がはるかに納得。

想像のアイデアが尽きたところで、ふいに誰かが来た気がした。

ドアの方に体を向ければ、すごく申し訳なさそうに近づいてくる彼。

それは紛れもなく阿部さんだった。

阿部さんは静かに私の隣のいつもの席に座って、数秒間、私を見つめる。

「ごめんなさい。」

私の目の前に差し出されたのは、“ごめん”の手話。

今までで一番苦しそうな“ごめん”だった。

「Aさんのこと、何も考えてなかった。自分勝手で、辛い思いさせて、本当にごめんなさい。」

阿部さんの手話だけが、私の視界の中に入る。

阿部side

「本当ですよ」

　

頭を下げていたけれど、視界にそんな手話が入ったのはちゃんと分かった。一気に心臓がギュッと縮まる。

「なんて、言うわけないじゃないですか。こちらこそ、本当にすみませんでした。」

「阿部さんとはやっぱり住む世界が違うのに、こんな会ってしまう私も私でしたし、笑」『そんなこと言わないで、』

“触れちゃいけない”
俺の脳の信号を無視して、手を掴んだ。

『お願いだから、俺と会ったこと、後悔しないでください。俺は、後悔していないから、』

ずっと、ずっと腕を離したくない。
離したとしても、またいつか、手を繋ぎたい。

そんなよからぬ思いが頭をよぎった。おかしいかもしれないけれど、紛れもなく、俺の本心だった。

『待ってて、欲しい。』

はっきり、本心のまま彼女に伝えた俺は、どうかしているかなんて、もう既にわからなくなっている。