イヤーマフの中で２ (ページ12)

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倒れた撮影機材ページ12

Aside

私の方に撮影機材が倒れてくる。

その後に全員が気付いたのか、テレビクルーのほとんどがこちらを向いた。

ごめんなさいってディレクターさんに言われてるのは分かっているけれど、かんたんには答えられない。

私が耳が聞こえないことを知らないから、無視されていることにディレクターさんはずっとハテナを浮かべて撮影機材を素早く直していた。

その間、呆然と立ち尽くす彼の姿。

その彼の足は今にもこちらに動きそうになっている。

危険を察知した私の脳は、すぐにここから逃げるようにという指示を出した。

本当はしっかり話したかったのに、私の足はスピードを上げていく。

止まれって何度も言っているのに、気づけば広場が見えないところまで走っていた。

きてくれるかもしれないという望みも消えた。

家の近くまで来てしまった私は、すぐに家に戻る気力もなく、公園のベンチに座る。

心を開いたはずだったのに、彼だけには心を開いたはずだったのに。

彼を苦しめてばかりの罪悪感で胸がいっぱいになって、目から水滴がこぼれ落ちる。

こんな私のところに来てくれるはずがない。

どれだけ傷つけたのか分からない。
生きていることさえ辛いこの世界で、彼という生きがいをなくしたら、何に頼っていけばいいのか。

自分から行く勇気もなかった。

泣いていたら、なぜか感じる誰かの視線。

『あ、え、阿部さん、？』
私は急いで涙をシャツで拭いた。

そこには公園の入り口でロケの衣装のまま立っている阿部さん。

『なんで、』

そう言った瞬間に広がる阿部さんの大好きな匂い。
阿部さんの大きな腕が、私を包んでいた。

私の肩にことん、とあごをおいた彼は、あの広場から公園まで走ったからか体温がずっと高かった。

少し体を離すと迷いながらも動く彼の手。

　
「ごめん、もう手話忘れちゃってそんなに話せないけど、」

「泣かないで」

彼の指が私の頬に伝う涙を拭った。