相克:W ページ43
帰り道の電話。
それが始まったのは、夏祭りの3週間くらい前。
だから、今から2ヶ月くらい前のことだ。
0時を数分過ぎるころ、バイト先を出たAから着信がくる。俺はその時間を見計らって、自室でその着信を受ける。
そこからAが家に着くまでの数分。10分にも満たない数分間、本当になんてことない会話を適当に交わして、家に着く直前にその電話は切れる。
Aのバイト先の近辺で不審者が出たらしいということで始まったこの帰り道の電話だけど、俺にとってこれは、密かな楽しみになってた。
Aが話すのは、バイト先の変な客の話や、最近あった面白いこと、今度行ってみたいところの話、欲しい洋服の話、などなど。本当に脈絡もなく適当な話を、俺はただ相槌を打って聞いているだけ。
でも、Aは一切、愚痴なんか言わなかった。
後ろ向きなことは一切口にせず、いつも楽しそうに前向きなことばかり話して、やっぱり弱さなんて見せない女だなって。そう思うと同時に、楽しそうなあいつの声を聞いてるだけで、俺までなんだか楽しいような気がしてきて。
月並みな言葉で言うなら、たぶん癒されてるって、そういうことだったんだと思う。
たったの10分。でも、俺とAだけの、秘密みたいな、大事な10分。
優越感を、感じてなかったと言えば嘘になる。
Aが俺にだけ、不安を打ち明けてくれて、それで始まったものだから。
そんな電話は3週間。回数にして、たぶん10回程度。
例の夏祭りの日まで続いた。
あの夏祭りの夜以降の俺には、Aと電話をするなんて、到底無理なことだった。
ただの逃げだけれど、Aの声を聞くのも姿を見るのも苦しかったし、照の話をされるんじゃないかってビクビクしてたのもある。
"悪い、今日電話できなさそうだから、一応メッセージ送って"
そっけないメッセージを送っただけで済ませてしまった。
それからの2週間くらいは、0時を過ぎたころにAから入るメッセージを、通知で見ることだけが俺の習慣だった。
"今終わったよ"
"これから帰ります"
"コンビニ寄るからグミ買ってってあげるねー！"
丁寧にも毎回変わるメッセージに、俺はいつも時間差で既読をつけるだけで済ませてしまっていた。
逃げて、逃げて。
逃げすぎた結果、このメッセージすら、俺は殺すことになってしまう。
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しょぴお - このお話すごく好きでした。今まで更新お疲れ様です。ずっと読んでました。笑 お話の終わり方がすごい、いい感じですね。このお話大好きです。 (2019年5月31日 19時) (
レス) id: d08dff729e (このIDを非表示/違反報告)
れいな(プロフ) - 続編待ってます。 (2019年5月30日 11時) (レス) id: f9aa5203aa (このIDを非表示/違反報告)
Momanao(プロフ) - 続編、楽しみにしてます！なんか...嵐が吹き荒れる予感が... (2019年5月16日 1時) (レス) id: a8ed6fc393 (このIDを非表示/違反報告)
しょぴお - 話を読んでて泣きそうになった…。いや、泣く笑 (2019年5月14日 22時) (レス) id: d08dff729e (このIDを非表示/違反報告)
ミックスジュース(プロフ) - なべしょに頑張って欲しい！この作品大好きです！！これからも頑張って下さい！楽しみしています(^○^) (2019年5月14日 20時) (レス) id: 6b8cfc92fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おかゆ
| 作成日時：2019年2月1日 14時
