夏祭り ページ49
いつかの雨の日ぶりに、あたしは照の背につかまって、時速10キロで夏の夜の風を切っている。
照の運転する自転車の、荷台が好きだ。
神社の石段から最寄駅の駐輪場まで、あたしたちの未来にはなにも関係ないことを話しながら、ゆっくりと帰ってきた。
シルバニアファミリーの鹿さんファミリーを買っただとか、ホワイトチョコはチョコレートと認めてないだとか。
ただの友達みたいに、くだらないことをやけに丁寧に言い合いながら、帰ってきた。
照は、あたしに、なにも求めなかった。
あたしがガチガチに固まって、なにも考えられずにいるのを、ちゃんと受け止めてくれた。
花火が終わるまで、ただ黙って、沈黙を味わって。
花火の音も消え去った頃に、どちらともなく立ち上がって、当たり前みたいに帰ってきた。
告白だったのかな。
そうなのかもしれない。
でも、違う気もする。
とりあえずあたしは、もう少しだけ、この恋愛のモラトリアムにいさせてもらえるみたいだ。
だけど、見て見ぬ振りし続けた終わりがそこに迫っているのを、あたしは今日知ってしまった。
"覚悟くらい決めなくちゃダメじゃない？"
いつかの木村くんの声が脳に響く。
ほんと、その通りだね。
人の気持ちに触れないようにして、誰の人生にも踏み込まないようにして、ただ好かれたいだなんて、あたしは甘すぎるよね。
無言で自転車をこぐ照の背中。
そっと手のひらで触れてバランスを取っているけれど、頭を寄せて、寄りかかってみたら、世界は変わるかな。
世界は、どう変わるかな。
髪飾りの花びらが、夏の夜風に揺れて、まるであたしを引き止めるかのように、耳もとでカサカサと音を立てている。
あたし、照のためだけに、浴衣を着ちゃったな。
照のためだけに、髪飾りを買っちゃったな。
家に着いたらすぐに脱いでしまうのを、少しだけ惜しく思った。
色んなことを考えすぎて、今日はもうなにも考えたくない。
照の背に、そっと手のひらだけを当てたまま、あたしはぼんやりと穏やかな振動に揺られ続けた。
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すずの(プロフ) - しょっぴーしんどみが深いです！ (2019年5月5日 2時) (
レス) id: 0281d1cc7e (このIDを非表示/違反報告)
もやし(プロフ) - 改めて最初から読み直しました！！しょっぴーが切ない…。しょっぴー頑張れ！！笑 (2019年1月25日 1時) (レス) id: e09021bb44 (このIDを非表示/違反報告)
とみちゃん(プロフ) - あなたの紡ぐ文章が読めて嬉しいです、応援してます。 (2019年1月25日 1時) (レス) id: df9c0b9860 (このIDを非表示/違反報告)
慧(プロフ) - 最近は更新が毎日あって寝る前の楽しみになっています！無理せず頑張ってください！本当に文章やストーリーがお上手で感動します（；＿；） (2019年1月24日 1時) (レス) id: 32bd2067cf (このIDを非表示/違反報告)
にゃんこけし(プロフ) - 阿部担だけど、なべがものすごく気になってしまいます…(笑) 物語もいよいよ佳境ですが、メンバー目線もっと読みたいです♪ 更新無理せず頑張って下さい(*´∀｀*) (2019年1月23日 17時) (携帯から) (レス) id: b63c0386f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おかゆ
| 作成日時：2018年12月18日 4時
