花が咲く頃に【wrwrd】 (ページ9)

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その日は、冷たい雨が降っていた。

今日の私は気合を入れて、彼とお揃いで買ったお気に入りの傘を手に、綺麗な花…名前は何だったか、確か秋明菊だったかな。その花が散りばめられたワンピースを着て、それに似合う素敵な靴を履いてきた。
久しぶりに会った彼がきっと惚れ直してくれる！そう気合いを入れ直し、待ち合わせ場所で待つこと数分、

｢A久しぶり｣

お揃いの傘とは違う傘をさして来た、数ヶ月ぶりに会う大好きな人は、記憶と違わず明るい笑みを浮かべていた。

｢ゾム！久しぶり！｣

その後は食事を楽しみながら会話に花を咲かせた。
楽しい時間だった。

｢ねぇゾム、この後はどうする？買い物とか行こうよ！近くに大きなショッピングモールとかあるし！｣

私はまだゾムと離れたくなくてそう提案した。そしたら、明らかにさっきまでと表情が変わって、バツが悪そうに目線を私から外した。

｢…今日ずっと言おうと思ってたんやけど｣

あっ、聞きたくない。直感でそう思った。
それを言われたら終わってしまう。
遮ろうと思った、何かを言おうとした。でも、萎縮した喉から声は出てこなかった。

｢俺らもう、別れた方がええと思うんや｣

｢どう、して…？｣

認めたくなかった。信じたくなかった。
まだ…好きだったから。

｢遠距離になって、Aの事好きかわからなくなってしもうたん…こんな気持ちで付き合ってるって言いたないし、お互い別れた方が前に進めると思うんよ…。｣

ゾムは凄く申し訳なさそうな顔で言った。
もう私の事は好きでないのだろう、でも、彼氏として傷つけまいと言葉を選んだようだった。

｢…うん、分かった。今までありがとう。大好きだったよ。｣

声が震えないように、ゾムの見えない所で拳を握りしめて、頑張って笑った。

｢今までありがとうな。俺も、大好きやったで。｣

そう言って、ゾムは少し悲しそうに笑った。
そのまま背を向けて、彼は1度も振り返ることなく歩いていった。

冷たい雨は私の服を濡らし、可憐な花は涙を流すように灰色に染まっていった。水滴を含んだ靴は重く、私の足はその場から動かなかった。

本来なら、その水滴を弾く為にある彼とお揃いの傘は、その仕事を果たす事も出来ずに私の手に収まっていた。

｢大好きだったのに…｣

小さく呟いたその言葉は雨音に掻き消され、私に背を向けて歩く彼には届かなかった。

私は冷たい雨に濡れながら、瞳から暖かい雫をこぼすことしかできなかった。