花が咲く頃に【wrwrd】 (ページ4)

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午後3時30分。
Aと連絡を取った後に電話をした相手の家に俺は居た。

「ん～と、どこやったかな...。あ、これとかどうやろ」
「何でもええよ。ほんま汚いな、鬱の部屋」
「いきなり頼み事しといてなんなん...。貸さんぞ？」
「んはは、すまん」

ふぅ、と煙を吐き出すと、鬱の銘柄とは違う香りが部屋に溶けていく。

「ほんまのこと話さないで会うつもりなん？酷い男やな、兄さんも」
「お前には言われたかねぇよ」
「そやけど、」
「コレ、借りてくな。ありがと」

中途半端に長い煙草を灰皿に押し付けて、火を消した。
これから彼女に久しぶりに会うというのに脚が重いのは、自分がしようとしている最低な行為のせいだろう。
がしがしと頭を掻いて待ち合わせ場所へと向かった。ぽつぽつとビニール傘に水滴がぶつかって落ちていく。近くの花壇には紫陽花が咲き誇っていて、その小さな花の塊でさえまっすぐに生きていると言うのに、俺はこんなにも捻くれていると自嘲気味に笑った。

「ごめん、遅くなっちゃった」

そう言いながら俺に駆け寄ってくるAは最後に会った時から何も変わっていなくて、少しだけ安心した。…まぁ、そんなの変な話なんやけど。

「平気やで。行こか」

彼女の歩幅に合わせて歩くこの感覚だって久しぶりで、酷く懐かしい。

「急にごめんね。実は話があって」
「話？」
「そう。…あのね、私今度結婚するの」

がつん、と鈍器で頭を殴られた様な衝撃が走った。

「そう、なんや…。そか、ええ事やん、おめでとう」

何とか絞り出したこの声は震えていないだろうか。動揺ごと嚥下する様に出された水を飲む。少しだけ頭は冷静になったけれど、どうして、という思いは消えない。
Aは嬉しそうに、それでいてどこか寂しそうに笑った。

「兄さんにも結婚式来て欲しいな。もちろん、仕事の都合が良ければだけど」

彼女の左薬指が眩しく見える。
その話とお互いの近況を話してその日は別れた。
結局、鬱に借りた偽物の指輪は俺の薬指には付けられなかった。