幻影の地下牢と2人の少女の物語 (ページ1)

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幻影① ページ1

時刻は午前1時。
夜勤を任された月白咲桜は屋敷の使用人部屋にいた。
｢あれ？鍵束どこ置いたっけ…｣
この屋敷は黒宮財閥の本邸であるため,とてつもない広さなのだ。それ故に鍵も異常な本数あり,掃除の度にどの鍵かわからなくなるのだが…。
｢あ,あった！決めた場所に置かないとダメだなぁ,すぐ忘れちゃう｣
咲桜はそんなことを考えながら鍵束を掴み使用人部屋を出た。
月白咲桜がこの屋敷に来てまだ一週間ほど。
しかしその天然さ故に皿を割りまくったり花瓶を壊したりなどし,それはもう散々な勤務ぶりだった。
(使用人が少なくなかったら,絶対一日目でクビだった…)
咲桜はここ数日ずっとそう思っていた。
｢でもなんでこんな広いお屋敷に使用人が10人しかいないんだろ…｣
この屋敷に勤める使用人は使用人を仕切る壮年の執事1人と見習い使用人が3人,老年の生き字引きとも言える使用人が1人に中年の家政婦5人だ。
その中でも住み込みの使用人は執事と生き字引き,見習い使用人2人だけだった。
｢さてと,お掃除始めますか…っと｣
咲桜は伸びをし,掃除道具を手に取って掃除を始めた。

掃除を始めて小一時間ほど経った頃。
｢あれ？おかしいな……。鍵が1つ残っちゃった｣
なんとか失敗することなく命じられていた全ての部屋の掃除を終わらせた咲桜だったが,余った1本の鍵を見つめて首を傾げた。
この屋敷を掃除するルールとして,一つの部屋の掃除が終わるごとにいちいち使用人部屋に行き鍵を返すというものがある。
さすがの咲桜も抜けているとはいえそのルールは厳守していて(しないと烈火のごとく叱られるからとも言えるが)その点では間違いはないはずなのだ。
なのに,1本見知らぬ鍵が余ってしまった。
咲桜は戸惑いながらも一旦使用人部屋に戻って考えることにした。
しかし…
咲桜が使用人部屋に向かっていると,背後から何かの扉が開く音が聞こえてきた。
咲桜がゾッとして振り返ると,廊下の先に見たことのない階段が現れていた。
(な,なにあの階段……!?)
恐ろしさに声も出ない。
しかし不審なものを確認しないことには仕事が終われない。
咲桜は恐る恐る階段の方へ近付いた。
やはりそこには整備された階段があった。
(い,行ってみないと……)
そう決意し咲桜は夜の階段を降りていった……。