終章 ページ17
『…。』
一人の少女が、
幸せそうに肩を並べる二人を見て、
大きくため息をこぼす。
『悲しいね、ほんと。』
彼女の眉間に皺がよる。
ふと、落とした視線の先には、
『懐中時計』が、
握られている、己の手。
『知らない方が、
幸せよね、きっと…』
彼女は空いた手で、
ポケットの中を探り、
もう一つ、『懐中時計』を出した。
その二つの懐中時計を、
夜空に浮かぶ月に照らし、
儚げな表情で、
ぽつり、ぽつり、と呟く。
『こういう事を、“夢幻ループ”と、
人はいうのかな？』
徨い続けた、夢の中で。
出会えたものは、
ただ、虚しい夢の世界＿
一つの時計は、
右へ、進み、
もう一つの時計は、
左へ、進む。
『本当に目覚めて欲しかったのは、
貴方の方だったのに…』
夢の中に、
閉じ込められたお姫様。
本当に眠っていたのは、
自分自身だというのに。
-
｢A……今日も、
長い夢を、見ているのかな。｣
真っ白な病室に響く、
恋人である、彼の声。
２ヶ月の下校途中、
突然襲った悲劇…
原因不明のまま、
眠り続ける彼女に、彼は今日も、
声を掛ける。
｢時計、あの時の、まま、だね…｣
あの事故で壊れてしまった時計は、
ヒビが入り、動かなくなってしまっていた。
あの時から、
彼女の時は進んでいない。
進まないまま、
２ヶ月眠り続けているのだ。
｢長い夢から、
早く、覚めて…。｣
-
最初から、
全て夢の世界。
事故にあったのも、
彼ではなく己自身。
誰よりも目覚めて欲しい、
そう願っていたのは、
奥底に眠る、消えかけた心の叫び。
彼女が持っていた『懐中時計』こそ、
彼女の時を示した、そのもの。
己が現実を拒み、
起きた事を、彼として嘆いた。
そんなものは、
自分で作り出した『妄想』でしか、過ぎないのに…
｢A…｣
悲痛な彼の声さえ、
彼女には届かない。
『永遠に覚めることのない夢を、
彼女は見続けているの。』
そう、
自分で作り出した、
もう一つの世界の中で…
-
＊Fin＊
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