青の病室【真人】 (ページ6)

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28日ページ6

真人は今日も来てくれた。「お化けって意外と退屈なんだね」と言ったら、不服そうな表情をした。

今日は調子が悪く、身体を起こすことが精一杯だった。

「外に猫がいた」

真人は、軽やかにこちらへ歩いてきた。

相変わらず、彼の歩き方はとても綺麗だと思った。

「だから持ってきた」

「わぁっ！」

そして、身体の後ろに隠していた腕が現れ、私の膝の上に少しふくよかな猫が置かれた。

「だめだよ。見つかったら怒られるよ」

猫は生きていた。この上なく不愉快そうな顔をしていたけれど、生きていた。

生きている温もりが、小さな命の鼓動が、私の膝の上に伝わってくる。

3色の毛並みからは、陽の光をめいっぱい吸い込んだような、温かく優しい匂いがした。

少しだけ、泣きそうになった。

「大丈夫だよ。この部屋はアンタしかいないし」

「…ふふっ、確かにそうだね」

「それと、アンタもしかしても猫アレルギーだった？」

「ううん。猫、好きだよ」

丸い背中を撫でてみた。

猫は気持ち良さそうにゆっくりと目を細めて、小さく「にゃあ」と鳴いた。

テレビ以外で猫を見たのは、一体何年ぶりだろう。触れたのなんて、人生で初めてのことかもしれない。

真人は、猫をここに連れてくるまでの経緯を話してくれた。

近くの幼稚園で運動会が行われていて、カラフルな色の帽子がまばらに混ざって金平糖のようだったこと。

白い小さな庭のある家からトランペットの音色が聞こえてきたこと。

深緑のジムニーが猛スピードで走った挙句信号無視をして警察に止められていたこと。

私はまるで自分が真人とその場にいるかのような想像をして、その話を聞いていた。

窓の外の陽気の中を、自由に動けたら

この世界の様々な美しいものをこの目に焼き付ける事ができたなら、どれ程幸せなんだろう。

考えるだけで、思わず頬が緩んでしまった。

「さて、アンタの番だよ」

真人はまるで鳥のようにベッドの柵へ飛び乗って、ニッと口角を上げると身をかがめた。

キラキラと輝く灰色と青色の目は、いつ見ても見惚れてしまう程輝いている。
穢れを知らない、幼い子供のような瞳だ。

「私の憎い人は、向日葵が好き」

「あと、牛乳が嫌い」

私も負けじと、ニッと口角を上げて答えた。

真人は拍子抜けしたように、目を丸くした。

猫のしっぽが、ゆらゆらと気持ち良さそうに揺れていた。