四十三話 ページ48
「あら俊國、何処か出かけるの？」
「はい。読みたい本があるので買いに行ってきます」
「もう夜も遅いわ。誰か使用人の方に買ってきて頂きましょう」
「いえ。外の空気も吸いたいので」
「そう、気をつけて行ってらっしゃいね」
黒光りした小さな革靴を履くと、私は重い扉を開けて外へ出た。
日も沈み、街は様々な色の輝きを放つ。
人の波の中で足を止め、ふと自分の手のひらに視線を落とす。
なんと小さく頼りないのか、情けない。
薬の研究場所の確保の為とはいえ、数時間もAのような子供に擬態するのは些か面倒であった。
暫くそうしていると、傍を通った女が身を屈ませて顔を覗き込んでくる。
「大丈夫？具合が悪いの？」
「とても顔色が悪いわよ、お父さんかお母さんはいらっしゃらないの？」
思わず殺してしまいそうになった。
一瞬にして身体中の血が全て逆流したかのような怒りが押し寄せる。
私は限りなく完璧に近い生き物となっても尚、弱々しくて、病弱そうで、今にも死にそうに見えるのか
甚だしい侮辱だ。
「……いえ、少し考え事をしていただけです」
「お気遣いありがとうございます」
私は出来る限り子供らしい、無垢な笑顔を作った。
「そう…なら良かったわ。ごめんなさいね」
そう言って去ろうと背を向けた女の手首に向かって、私は軽く爪を立てた。
一瞬のことだ。辺りは誰も気が付かない。
そして再び歩を進める。
背後からは、切り裂くような悲鳴が聞こえる。
角を曲がり、ため息混じりに本屋へ入ると医学書の棚に並べてある本を適当に開き、めくっていく。
人間の書いた医学書はどれも知識が浅すぎる。
短い寿命で懸命に調べ尽くしたにしては良く出来ているが、やはり既に私が得ている知識の方が遥かに多い。
何万冊もの医学書や太陽光、植物に関する書物を読み漁ったが、1つとして青い彼岸花について描かれているものはない。
彼岸花の様々な成分を組み換えることで作り出すことも試みたが、どうにも上手くいかない。
「おいおい、鬼が出たとかで外はえらい騒ぎだったぜ。ありゃ何だ。女が警官に噛み付いてやがったぞ」
「馬鹿、鬼なんて所詮作り話だよ。そいつは気でも触れちまったんだろ可哀想に」
「でもよお前、こーんな、猫みてぇな長い牙と爪の人間がいるか？あーあ。嫌なもん見ちまったよ全く」
私は客同士の会話を小耳に挟みながら、店主に紙幣を数枚手渡し、本を抱えて店を出た。
家の灯りが次々に灯り、街は先程よりずっと明るくなっていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1455人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(ねこたん ・∇・ - 「私を見下せたのがそんなに嬉しいか」にツボってます(( (2月25日 21時) (
レス) @page4 id: f02fa02e3e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 無惨と夢主が微笑ましすぎてつらい、気付かないうちに口角が釣り上がってしまいました！ (2月18日 23時) (レス) @page43 id: e2553842fc (このIDを非表示/違反報告)
黒蝶(プロフ) - 皇帝の一人娘みたいな感じがあって好き (2022年8月9日 19時) (レス) @page5 id: 59c4260589 (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» 鬼滅の刃の漫画を拝読させていただいた際に鬼舞辻無惨が自らがいる場(無限城や遊郭など)では名を呼ばれても呪いを発動していないシーンが見受けられましたので、本作もそのようにさせ頂きました (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 星さん» ありがとうございます！返信遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした！これからも頑張って更新させていただきますので何卒よろしくお願いします！ (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もきゅもきゅ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2019年12月27日 21時
