四十二話 ページ47
Aは目に見えぬ速さで成長していた。
ほんの数年前は私が視界から消えただけで泣き喚き、地べたを這いつくばって探し回るような弱い生き物であった。
だが今はどうか。私と同じ空間にはいるものの、一人で椅子に腰かけ、私の買い与えた児童向けの本を読んでいる。
「A」
普段私から話しかけることは少ないためか、Aは少し驚いた顔をした。
「何をしている」
「ほんよんでる！」
そして、何が嬉しいのかにんまりと頬を緩ませる。
「そんな暇があるならお前のような微力な鬼でも私の役に立つ努力をしろ」
「青い彼岸花を探すか、鬼狩りを殺すか…やるべき事は他にいくらでもあるだろう」
Aは待ってましたとばかりに目を輝かせ、本を椅子へ置きざりにして私の元へと駆け寄った。
「そとにいきたい！！」
「あおいひがんばな、さがしたい！」
そして満面の笑みを浮かべながら小刻みに跳ねる。
「…許可してやろう」
「だが私はお前とは違って忙しい。外へ行くのなら鳴女の使い魔を同伴させろ」
一人で行くことを期待していたのか、Aは一瞬眉をしかめたが、それでもすぐに表情を明るくして頷いた。
「ただし条件がある」
Aは背筋を伸ばして固まる。
「日が昇ったら無限城へ戻れ」
「お前の力量では人間の生活に馴染むのは無理だ」
Aは先程より目を輝かせると「わかった！」と元気よく返事をした。
この小さく回らない頭がいくら理解できているのか疑問であったが、そんな事をいくら考えても仕方がない。
花を探したくない、外へ行きたくないなどと駄々をこねられるよりは何倍も良い。
それからしばらくAは大きな足音を鳴らしながら部屋と部屋を行き来し、走り回ると
「おとうさん、いってきます！」
言うが早いか、Aは小さな鞄を片手で抱えて手を振る。
その隙に鳴女の使い魔である足の生えた小さな目玉が、するりと鞄へと入り込むのが見えた。
そして、琵琶の音ともに一瞬にして姿を消した。
嵐が過ぎ去ったように静寂に包まれた部屋は埃が舞い、花瓶や椅子はなぎ倒され、床には花瓶の破片が散らばっている。
「…掃除をしておけ」
私は何処かで見ているであろう鳴女にそう告げると、自室へと向かった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1455人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
(ねこたん ・∇・ - 「私を見下せたのがそんなに嬉しいか」にツボってます(( (2月25日 21時) (
レス) @page4 id: f02fa02e3e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 無惨と夢主が微笑ましすぎてつらい、気付かないうちに口角が釣り上がってしまいました！ (2月18日 23時) (レス) @page43 id: e2553842fc (このIDを非表示/違反報告)
黒蝶(プロフ) - 皇帝の一人娘みたいな感じがあって好き (2022年8月9日 19時) (レス) @page5 id: 59c4260589 (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» 鬼滅の刃の漫画を拝読させていただいた際に鬼舞辻無惨が自らがいる場(無限城や遊郭など)では名を呼ばれても呪いを発動していないシーンが見受けられましたので、本作もそのようにさせ頂きました (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 星さん» ありがとうございます！返信遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした！これからも頑張って更新させていただきますので何卒よろしくお願いします！ (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もきゅもきゅ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2019年12月27日 21時
