鬼の娘

三十八話 ページ41

「それは本当かい」




「はい。ほんの小さな子供の鬼が、一瞬にして多くの鬼殺隊士に深手を負わせたようです」


「皆かろうじて一命は取り留めているものの、再び鬼殺隊として活動することは難しいでしょう」




柔らかい夜風が頬を掠める




「その鬼の目に、数字は刻まれていたのかい」




「…数字を見たという証言はありません」


「ですが、隊員によるとその小鬼は親と思しき鬼に抱き抱えられて姿を消したと言うのです」


「その鬼が十二鬼月である可能性は充分にあると思われます」




風に乗って、藤の花の匂いが運ばれてくる




「報告ありがとう。しのぶ」


「今日は任務で疲れただろう。もう体を休めなさい」




「…御意」





しのぶの気配が消えるのを感じると、私は風の方向に顔を向け、膝上に置かれた柔らかい手を握った。





「あまね」



「はい」



「今日は月が出ているのかい」



「はい。とても大きな満月が」





今頃、何処かで人が鬼に襲われている



その事実だけで腸が煮えくり返りそうな程の怒りが、身体の底から湧き上がるのを感じた。






無惨の支配下の鬼に子孫を残す能力があるとは考えにくい。




人間は無惨から血を与えられることで鬼になる


裏を返せば、無惨により選ばれた人間が鬼にされる




つまり、無惨は自ら鬼にした人間を把握しているということだ。




鬼が基本的に群れで生息していないのも、無惨の指示により配置されているからだろう。



作り出した鬼に繁殖能力など与えてしまえば、自らの管理が届かない鬼が増えることとなる。


そうすれば、何処かで自分の情報が誰に語られようとも阻止することはできない。




それは過剰に正体を隠したがる無惨にとっては絶対に避けたい筈だ。





よって、鬼に子孫が残せるとしたら




鬼舞辻無惨ただ一人だ






「無惨の子供…という可能性は高いかもしれない」




だとしたら、何故鬼殺隊士を殺さなかったのか



そんな事絶対に無惨が許すはずはない




あの無惨が自分の子供だからと特別甘やかしているとも考えにくい。





「少し情報を得る必要がありそうだね」




だが、万に一つの可能性だが、もし無惨が1人の親として自分の子供を愛しているというのなら



その子供は、無惨を倒すための一筋の光となり得るだろう。

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