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三十四話 ページ37

父は私を布団ではなく父専用のベッドへと寝かせた。



「ふかふか!」


「おとうさん、ふかふか!」



「静かに寝ろ」



上質で、雲の上のように柔らかいその触り心地にはしゃいでいると、父は私を無理やりに横にさせた。



「おとうさん、えほんよんで!」


「図に乗るな。何様のつもりだ」


「よんで!よんで!」



ランプの灯りを弱めると、父は眉間に皺を寄せながらも壁一面にある本棚から1冊の分厚い本を取り出す。


そして、古びたページを捲っていき、適当な場所で手を止めた。



「見ろ」



本の中には、一輪の花が咲いていた。


青色の花だ。花弁が反り返っている奇妙な形の。



「おはな!」


「Aしってる!ひがんばな!」



「…あぁ。青い彼岸花」


「私が欲しくてやまぬ花だ」




父は椅子へ腰掛けると、何処か悲しげに目を細めてその花を見つめた。



「おとうさん、このおはながほしいの?」



「あぁ」


「千年もの間ずっと探し続けている」




父のあんな表情を、私はこの時初めて見た。


何時もとは少し異なる悲しげな雰囲気を纏っている。




「Aがみつけてあげる!」




元気づけようと言った言葉は逆効果だったのか、父は眉間の皺を深くして私を睨んだ。



「軽口を叩くな」


「お前なんぞに簡単に見つけられる代物ではない」



「私がどれ程必死になって探していると思っている」




父は不愉快そうな顔を浮かべながら本の文字を目で追っていく。

くたびれた表紙には何やら難しい漢字が並び、本の所々には端正な文字で様々な考察や実験結果が記されていた。



本をそっちのけで父の顔を眺めていると、父は私が興味を示していないと思ったのか本を自らの元へ寄せて黙々と読み始める。




「おとうさん」




集中しているのか敢えてか、父は反応しない。




「Aね、えっとね」




少々気恥ずかしく、掛け布団で顔の下半分を隠す。




「おとうさんいるからね、もうこわくないよ」


「だからね、A」


「おとうさんがこわいとき、いっしょにいる」




父は鼻を鳴らすと、煩わしそうに瞳を動かす。




「お前は私を何だと思っている」


「私はそれ程までに臆病者の無能に見えるか」




「Aのだいすきなおとうさん」




重くなった瞼を何とか開きながら答えると、父はより一層顔をしかめながら「殺すぞ」と言い放った。


父の本心でないことはわかりきっていたからゆっくりと頬を緩めると、父はまた不機嫌そうに私を見つめた。

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(ねこたん ・∇・ - 「私を見下せたのがそんなに嬉しいか」にツボってます(( (2月25日 21時) (レス) @page4 id: f02fa02e3e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 無惨と夢主が微笑ましすぎてつらい、気付かないうちに口角が釣り上がってしまいました! (2月18日 23時) (レス) @page43 id: e2553842fc (このIDを非表示/違反報告)
黒蝶(プロフ) - 皇帝の一人娘みたいな感じがあって好き (2022年8月9日 19時) (レス) @page5 id: 59c4260589 (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» 鬼滅の刃の漫画を拝読させていただいた際に鬼舞辻無惨が自らがいる場(無限城や遊郭など)では名を呼ばれても呪いを発動していないシーンが見受けられましたので、本作もそのようにさせ頂きました (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 星さん» ありがとうございます!返信遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした!これからも頑張って更新させていただきますので何卒よろしくお願いします! (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もきゅもきゅ | 作者ホームページ:http://mokyumokyuuu  
作成日時:2019年12月27日 21時

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