三十三話 ページ36
「おとうさん…」
とある昼のこと、眠っていたはずのAがぼろぼろと涙を零しながら私の元へ歩いてくる。
「何だ」
「こわいゆめみた…」
本を机の上に置き、珍しく声を殺して泣くAを抱き上げると、小刻みに肩が震えているのが伝わる。
「馬鹿馬鹿しい。夢などお前の未発達な脳が創り上げた幻想でしかない」
「わざわざ泣く必要がどこにある」
Aは小さな拳で何度も涙を拭う。
「みんなしんじゃったの。ころされた」
「Aひとりになっちゃった」
「鬼が…いや、私が死ぬ事など有り得ない。まして殺されるなど以ての外だ」
「それともお前も私の死を願っているのか」
髪が乱れる程首を横に振ると、Aは遂に大声を上げて泣き喚き、両手を広げ抱きついてくる。
「おとうさんしんじゃいやぁ！！！」
「耳元で大声を上げるな。私の言ったことを聞いていなかったのか」
頬を猿のように赤くして泣くAに呆れ、背中を撫でながら抱き寄せた。
不本意だが、暫くこうしていれば泣き止むだろう。
“あぁ、いっそ早く死んでしまった方が楽だろうに。何と可哀想な御方だろう”
“口惜しや…あの様子ではもう先は長くあるまい”
目を閉じれば、下衆な人間共の声が頭を過る。
襖の隙間から顔を覗かせ、いつ死ぬかまだ生きているのかと私を見世物のように扱い悪態を浴びせるのだ。
「おとうさんしんじゃだめ！！いや！！」
「ぜったいいや！！！」
目を開くと赤い瞳を歪ませながらAが叫ぶ。
まだ言うかと溜め息をつくと、小さな口から思いもよらぬ言葉が飛び出す。
「Aがまもる！！」
「……守る？」
「お前が、この私を守るだと？」
「うん！」
鼻を膨らまし、自信満々に答えるAに唖然としてしまう。
「お前も冗談を言うようになったか」
「ほんとだもん！」
Aは足をじたばたと動かし抗議し始める。
だが、私の顔を見るなり、だらしなく頬を緩ませ笑った。
お前は本当に愚かな子供だ。
私が叱れば、傍を離れれば、大声で泣き
私が歩けば、覚束無い足で後を追い
私が抱きあげれば、安心したように寝息を立て
私が笑えば、笑うのか
それ程までに私を慕うか。私はお前を決して愛さぬというのに。
挙句私を守るなどと出来もしない戯言を吐くとは。
なんと哀れで
惨めで
侘しい生き物なのだろうか
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(ねこたん ・∇・ - 「私を見下せたのがそんなに嬉しいか」にツボってます(( (2月25日 21時) (
レス) @page4 id: f02fa02e3e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 無惨と夢主が微笑ましすぎてつらい、気付かないうちに口角が釣り上がってしまいました！ (2月18日 23時) (レス) @page43 id: e2553842fc (このIDを非表示/違反報告)
黒蝶(プロフ) - 皇帝の一人娘みたいな感じがあって好き (2022年8月9日 19時) (レス) @page5 id: 59c4260589 (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» 鬼滅の刃の漫画を拝読させていただいた際に鬼舞辻無惨が自らがいる場(無限城や遊郭など)では名を呼ばれても呪いを発動していないシーンが見受けられましたので、本作もそのようにさせ頂きました (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 星さん» ありがとうございます！返信遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした！これからも頑張って更新させていただきますので何卒よろしくお願いします！ (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：もきゅもきゅ | 作者ホームページ：http://mokyumokyuuu
作成日時：2019年12月27日 21時
