一話 ページ2
赤子の鬼には大きな欠点があった。
“この赤子は、人間を食さない”
鳴女からそう報告を受け、私は無限城の一室へと足を踏み入れた。
その瞬間、鳴女の腕の中で、鼓膜が痛むほどの大声を上げて泣く鬼の姿があった。
赤子は私に気が付くと、こちらへ視線を向けた。
その瞳は赤く、私と同じ形状をした鬼の目だった。
「赤子をこちらへ寄越せ」
私は鳴女から赤子を受け取ると、人間の血を大量に含んだ脱脂綿を赤子の口元へと近づけた。
だが、確かに赤子は爪や牙を出して暴れ、大声で泣き喚き、それを口に含むことを拒んだ。
飢えている状態であることは確かだ。普通の鬼であれば人の血肉が近くにあれば獣のように飛びつき食すだろう。
「こいつは、自分の母親を食したのでは無いのか」
鳴女を睨むと、鳴女は困ったように視線を下げた。
しかし、鳴女の脳内を見る限り、不確定な情報を渡したという訳では無さそうだった。
人間を食わぬ鬼など、鬼としては致命的な欠陥だ。
だがしかし、この鬼はまだ生まれて間も無い。人間を食す事すら身体に負荷がかかるのかもしれない。
牙すらまともに生えていないのだから、その可能性は十分にあった。
「何か小柄な動物の血を摂取しろ」
鳴女にそう伝えると、私は腕の中の赤子に視線を戻した。
悲鳴のような泣き声を上げ、まるで助けを乞うように小さな爪を私のベストに食い込ませていた。
「私に、容易く触るな」
その爪を引き離した。
この鬼が自分の子供であるなど信じ難い。信じ難いが、この赤子の癖のある髪質や、血液のように赤い瞳は、どうしても疑いを抹消せざるを得ないほど、私と瓜二つであった。
鳴女が戻り、小さな動物の血液と、粉乳を混ぜ合わせ、与えた。
すると、赤子は先程泣いていたのが嘘のように血液をごくごくと飲み始めた。
途中で何度か咳き込んだものの、瞬く間に小鳥一羽分の血液を飲み干してしまった。
「奇妙な餓鬼だ」
赤子は泣き疲れたのか、飲み終わるとすぐに眠りについてしまった。
先程の騒がしさが消え、再び静寂が訪れる。
「無惨様、その子のお名前は如何いたしましょうか」
「…名前…か」
赤子は、口元にべったりと血をつけたまま、寝息を立てる。
「…A。お前はAだ」
名を呼んだ瞬間に、Aはぼんやりと目を開き、ゆるやかに口元を緩めた。
「何が可笑しい」
「…自身の父上だとお解りなのでは」
鬼には本来生殖機能など無いはずだ。親子も何もあったものでは無い。
しかし、赤子は数多の生き物を殺した私の腕の中で、心から安堵したように眠りについていた。
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(ねこたん ・∇・ - 「私を見下せたのがそんなに嬉しいか」にツボってます(( (2月25日 21時) (レス) @page4 id: f02fa02e3e (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - 無惨と夢主が微笑ましすぎてつらい、気付かないうちに口角が釣り上がってしまいました! (2月18日 23時) (レス) @page43 id: e2553842fc (このIDを非表示/違反報告)
黒蝶(プロフ) - 皇帝の一人娘みたいな感じがあって好き (2022年8月9日 19時) (レス) @page5 id: 59c4260589 (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 茨の谷の第二王子さん» 鬼滅の刃の漫画を拝読させていただいた際に鬼舞辻無惨が自らがいる場(無限城や遊郭など)では名を呼ばれても呪いを発動していないシーンが見受けられましたので、本作もそのようにさせ頂きました (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
おむれつ(プロフ) - 星さん» ありがとうございます!返信遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした!これからも頑張って更新させていただきますので何卒よろしくお願いします! (2022年2月16日 21時) (レス) id: b911301b3c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もきゅもきゅ | 作者ホームページ:http://mokyumokyuuu
作成日時:2019年12月27日 21時