苦いこれ。 (ページ34)

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跡　ko-chan ページ34

『好きな人が出来たの』
Aのその一言で築き上げた俺たちの5年間はいとも簡単に崩れ去った。
正直ここ数ヶ月、幾度となく別れを考えた。
それでも言えなかったのは俺のちっぽけな意地と捨てきれない恋心。
どれだけ傷付けられたって、いや、傷つけられてるからこそ手放せないのだ。

「今までありがとう」
「……うん」

これで最後なのに、気の利いた台詞も嫌味の一つも何も思い付かなくて、俺と違って晴れやかな顔をしている彼女が憎たらしい。

綺麗に巻かれた髪も、長いまつ毛に丁寧に塗られたマスカラも、薄いピンクのネイルも、少し前まで俺だけの物だったのに。

左手の薬指から外された華奢なゴールドのリングは静かにテーブルに置かれた。
いい思い出ばかりが蘇って、俺たちもう無理なのかなだなんて縋ることさえ許されない空気が苦しい。

「じゃあ、私、行くから」
「あぁ……気をつけて」

ずるいよ。
俺を置いていかないでよ。
ねぇ、別に他の男に目移りしたって最後に俺のところに帰ってきてくれたらいいから。

席を立ったAの顔が見れなくて、それでも何もついていない彼女の薬指に張り裂けそうな気持ちで目をやれば。

「……っ！」

そこにはほんのり日焼けの跡。
簡単には消せない俺との想い出がそこには確かに残ってて。
その跡を見てしばらくは俺のこと思い出して欲しいだなんて最後まで俺は女々しい男だ。