やり直し izw ページ32
例えば、Aと出会い直すことが出来たとして。
そしたら俺達は恋に落ちたりするのだろうか。
「これ、美味しいよ!」
そう言って蛸の唐揚げを俺の取皿に寄こすAは俺の数少ない飲み友達。
細い身体に似合わない大きなジョッキでビールを飲むAは豪快で面倒見が良くて俺よりよっぽど男前だ。
見たことのないマゼンダレッドのリップは彼女の白い肌を引き立ててよく似合っている。
アイラインのひき方を変えたのか、今日はやや吊り目気味に見えて、それもとても魅力的で。
俺はお前のそういうとこ、ちゃんと気づいてるんだぜって言ったらどんな顔するんだろう。
仕事が出来て稼ぎもあって、美意識も高くて人打ちどころのないAの元恋人は一緒にいると休まらないってお前の前から去ったんだっけ。
俺ならそんなこと思わねぇのに。
だってお前さ、結構乙女なとこあるし。
本当は人並みに弱いとこもあって、そのくせ人に頼ったり甘えたりすることが苦手だっていう不器用なとこも知ってるし。
あぁ、なのに。
「うっま」
「でしょー」
恋人としてAの横にいる自分が想像出来ないのは何故だろう。
蛸の唐揚げを頬張る俺を、Aは嬉しそうに見ているけどその瞳は恋してるものではなくてチクリと胸が痛む。
もし出会い直せたら恋に落ちるのかって、“俺たちが”じゃなくて“お前が”か。
何度出会い直したってきっと俺はその度お前に恋をするよ。
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作者名:ももりん | 作成日時:2020年5月30日 18時