苦いこれ。 (ページ3)

今日:7 hit、昨日:5 hit、合計:48,258 hit

。ページ3

Aが言っている日のことを俺は覚えている。
下校中にわざとらしくぶつけられた右手。
でも、俺にはそれをつかむことが出来なかった。
Aが好きだったから。

もし、たまたまぶつかっただけだとしたら？
告白をしたわけでも、されたわけでもない俺たちは、友達以上ではあっても恋人といってもいいのかわからなくて。

Aが本当に俺のことを好きでいるのか自信がなかった俺は、手を繋いでしまったら嫌われたりしないだろうかと不安で気が付かないふりをした。

懐かしいなぁ、なんて過去のこととして消化しているAと、まだあの日に置いてきぼりな俺。
意気地無しの少年だった俺は大人になったって不甲斐ないままだ。

短期間の恋人ごっこが終わって、なんとなく疎遠になって友達ですらなくなった俺たちは高校進学を機に完全に他人になったのに、まさか大学で再会することになったわけだが、今の関係は一体なんと言えばいいのだろう。

「航平はさ、好きな人とかいないの？」
キラキラした瞳でそんなことを聞くAにとって俺はもうとっくに恋愛対象ではないのだろう。

俺だって一途にAだけを想い続けていたわけではない。
それなりに恋だってして、彼女だっていたし、色々経験だってした。
だけど、Aのことが喉に刺さった小骨のようにどこかずっと気になっていて、あの日のAの顔が今になったって鮮明に思い出せる。

「俺はしばらくいいんだよ、そういうの」
もう恋人同士に戻れないのなら、せめて友人として側にいることを選ぶ俺は多分一生臆病者のままだ。