甘いそれと、 (ページ25)

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でも。
今日まで当たり前だった須貝を明日からはもう見ることが出来なくなる。
少しヘタった学ラン、踵を踏み潰したボロボロの上履き、丈がやや短めになってしまった学生ズボンも今日までなんだ。

「須貝、あのさ」

もういいや、言ってしまえ、と半ばやけくそで切り出した。
背の高い須貝を見上げると目が合って泣きそうになって息が詰まる。

「A」

ほんの僅かな沈黙のあと、会話の主導権は須貝に移った。
タイミングを逃して、やっぱり言えなかったと自分の弱さが情けなくて目を伏せた。

「手、出して」

彼に言われるがまま左手を差し出すと、須貝の大きな手が重なって、ジャラジャラと何かが置かれる。

「どれが第2ボタンだかわからねぇな」

私の手の上には、卒業式までついていた学ランのボタンが5つ転がっていた。
訳が分からなくて戸惑っていると須貝は照れくさそうに笑った。

「お前、俺のこと好きだろ？
ボタン欲しいんじゃないかなって」
「……なんで」
「だってほら。
俺もお前に貰ってほしかったから」

柔らかい風が吹いて、セーラー服のスカーフが揺れた。
今日で最後の制服の私達を包むように桜の花びらが舞っていて、夢でも見ているかのよう。

「好きだよ。
一年の頃からずっと」

あぁ、私の好きな人が須貝でよかった。
涙が溢れた私を須貝は優しく抱きしめてくれた。