あなたと過ごす12カ月【kwmr】

you ページ12

ぽかぽかと気持ちの良い陽気が足取りを軽くさせた。
河村さんと手を繋いで歩く河川敷は桜の花びらが舞っている。
私はそれを掴もうとするけどおしいところで手をすり抜けていってしまう。


「なかなか取れないなぁ。河村さんみたい」
すると河村さんが一発で花びらをつかみ取った。
「すぐに取れたよ。Aみたい」
そう言って笑った河村さんは素敵だった。
彼は私がベタ惚れであることをよく知っていて少しだけ悔しい。


ごう、と強い風が吹く。
私はぎゅっと目を閉じる。
「あ、髪についたよ」
「え？本当？
やったー、河村さんの方から来てくれたんだね」
そうだ。
いつだって河村さんは私を見つけて来てくれる。


やってきた小さな公園には大きな桜の木が一本。
こんなに良い天気なのに花見客は私たちだけだ。
せまいベンチに身を寄せ合って腰掛け、お弁当を広げる。
私の揚げた唐揚げと河村さんの焼いてくれた卵焼きが隣り合っていて嬉しくなった。


「満開だね」
堂々と咲き誇る桜はとても綺麗で、なのに今この瞬間にも散っていく姿は儚くもある。


「A、桜の花言葉って知ってる？」
河村さんが聞いた。
「うーん、純潔だっけ？」
河村さんと付き合って私も少しだけ賢くなった。


「そう、日本ではね。
フランスの花言葉では“私を忘れないで”なんだよ」
桜を見上げた河村さんはどこか寂しそうで、私は彼にもたれ掛かってみた。
河村さんが焼いてくれた卵焼きはしっとりと甘かった。

He→←卯月　he

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