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あっさりと踵を返したAさんに思わず声を掛けてしまったけれど、振り返った彼女と目が合うと頭が真っ白になってしまった。
息が詰まって、目を伏せる。
肌を刺すような冷たい空気が余計に苦しくさせた。
何か話さなくては。
やっとAさんに会えたのだから。
そう思って必死に話題を探すも、彼女を引き止めるほどのものなんて見つからない。
「あの、俺」
「先生」
焦って絞り出した俺の声を遮ったAさんは微笑んでいた。
彼女のその表情に俺が泣きそうになるのは何故だろう。
「私、引っ越すんです。
もうこのバスに乗るのも最後で」
つまり、それは、
「だから、先生とはもう会わないです」
「……っ」
ああ、俺だけが取り残されていく。
胸が苦しくて、鼻の奥がツンと痛む。
立ち尽くしている俺にAさんがゆっくりと近付いた。
そしてあの日と同じようにマフラーを解いて、まだ体温の残っているそれを俺に巻いた。
「先生を好きになって良かった」
そう言ってはにかんだ彼女は、もう、
俺のことなんて――――
視界が滲んで、彼女の顔がぼやける。
その瞬間、俺たちの唇は重なった。
たった一瞬、触れただけだけれど。
驚いてAさんを見たら、一つでも瞬きをしたらこぼれてしまう程の涙をためて悪戯そうに笑った。
「えへへ、最後に思い出貰っちゃいました」
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ふじ - もう面白いです!続き待ってます! (2020年11月14日 0時) (レス) id: 68c088e357 (このIDを非表示/違反報告)
はるちゃん(プロフ) - こうちゃーーん!可愛すぎるしカッコよすぎる。続きが楽しみです!更新頑張ってくださぁぁい! (2020年11月9日 6時) (レス) id: f413f36fa8 (このIDを非表示/違反報告)
ピーチフラペチーノ - あぁーこのカンジのお話好き!応援してます!頑張ってください! (2020年11月6日 15時) (レス) id: cb74bd79ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ももりん | 作成日時:2020年10月30日 6時