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ㅤ宝ものを腹に抱え、山を下りた。
 あのままあそこに居たのでは不味いことになる気がして不安だったのだ。

 辺りは薄暗く霧が立ち込めていて前がよく見えない。
 木や雑草が生い茂る斜面を私は滑るように下ったが、足はすでに前日の雨の影響で泥濘んだ土が纏わりついて汚れている。

 どうしてここへ来ていたのだろう。
 いつ家を出たのかさえ分からない。ただ素足のまま外を歩くなんて不思議だ。

 足の裏が冷えて痛い。

 時折本当に滑って腹を庇って木々に腕や足を打ち付け、傷だらけになりながら、やっとの思いで麓らしき地域に辿り着く。と、一瞬呆気に取られた。

 目の当たりにした有り様にぐっと喉が詰まる感覚があり、私は再び歩き出す。

 湿っぽい地質、大きな水たまり、水気の多い空気、山の中と変わらないどんよりとした曇りの空、倒壊した家の棟を踏む。

 どこへ向かえばいいのか知らない。でも何となくこの場所を離れる道を知っている気がする。自然と前へ足が進み、不運にも飛び出た木の棘に足を引っかけてしまう。

 すぐに切れた箇所が熱くなるのを感じ、俯くと足についた黒い泥の中に赤い液体が水分に溶けて流れ落ちていくのが見えた。きっと傷は大したことはない。それでも流れ出る血の量は泥の保有する水気に溶け出しやすいようで、かなり出血しているように錯覚する。


 ふらっとする。早く帰って、休まなきゃ。


 覚束ない足取りで土地を抜け、近代的と言い難い落ち葉まみれの汚れたアスファルトの上を歩く。霧は晴れたがまだ陽の光の届かない暗さは続いている。
 見知った道に出るまでどれだけ時間が掛かったか分からないが、はたと酷い考えが解消したように顔を上げると家の前にいた。



「逃がすものか」



 背筋がゾッする。勢いよく振り返ってもそこには誰もいなかった。ただ花開院くんから貰った数珠が砕けた。散った深紅が光もないのに輝いて消える。

 ダイヤモンドダストのように細かくキラキラと舞い落ちる美しい光景だ。しかし昨日言われたことが頭の中に蘇り、私は焦って上った階段で脛を打った。その痛みに思わず声が出て、片足に力が入らない何とも不格好な体勢で家に転がり込むのだった。

第三章 皐月の手→←┝ 1



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ワモテ(プロフ) - 雪もちわんこさん» ご感想ありがとうございます。シリーズ物の第一作目なので思い入れがあり、ご評価頂けて嬉しいです。(*^^*) (2022年2月20日 22時) (レス) @page11 id: 6d40387773 (このIDを非表示/違反報告)
雪もちわんこ - 文章がよくてとても面白い小説でした!語彙力がない私と比べものにならないきらいです、、、! (2022年2月20日 19時) (レス) @page14 id: 1c6c8bc54a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ワモテ | 作成日時:2021年10月26日 16時

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