プロローグ ページ1
ㅤ黒い川の上を一隻の小舟が進んでいた。
漕ぎ手はなく、けれどひとりでに動いている。
代わりに、一人の男の子が乗っていた。
男の子は生気が無いかのように俯いて座っており、和装の上から黒い何かに覆われていた。
それは川の中から伸びる髪だった。
ここは光がなく、しかし艶やかにぬらりと光を湛えている──漆黒の髪が子供の体に絡みつく。
この小舟が向かう先はない。決してたどり着かず、ただ三途を揺蕩い続けるのみ。
呪いは髪に姿を変え、呪い殺した者をあの世に送らず、永遠に留める。そのために捕らえ続けるのだ。
やがて男の子の体が完全に髪に呑まれ、消える瞬間──川の中から小さな手が伸び、子供の腕を引っ張った。
その途端はっと息を吹き返すように男の子が意識を取り戻す。
驚いた男の子が川へと落ちた。髪は面白いほど簡単に解けた。
「けいかいんくんを、つれてかないでっ」
水面から飛び出した女の子は髪に向かって強く発し、男の子の体を全身で抱き止める。落水した二人をすぐに大量の髪が追いかけるが、女の子が男の子を庇った。
──自分の代わりに。呪いに囚われた女の子に向かって男の子は手を伸ばすがそれは空しく水を掴む。
鉛のように動かない小さな体は静かに沈んでいき、男の子は女の子を覆い尽くす呪いをただ見守った。
見慣れた天井が目に飛び込んできた。目が覚めたのだ。
新鮮な空気を感じ、竜二は呆然としている。
すると遠くから沸き立つような歓声が上がった。竜二には壁越しに聞こえるような音でしかなかったが、実際は彼の周りから発せられたものだった。
やっと気づいた。天井の手前になんだか懐かしいような顔ぶれが揃っている。皆一様に喜びに満ち溢れた顔をしていた。
ああ、生きて帰ったのだ。
その中には祖父の顔もあり、祖父は何も言わずに、しわくちゃな手で竜二の頭を優しく撫でる。その心地よさに小さな竜二は一瞬意識を手放しかけたが、
「よかった!呪いを跳ね返したんだ!」
そんな声を聞かなければ。
とっさに違うと口を開きかけたが体が言うことを聞かなかった。
全身汗でぐっしょりと濡れ、息苦しさに目が回る。
呪いから奇跡の生還を遂げた男の子を取り囲み、大人たちは大層喜んだが誰も竜二の異変に気づくことはなかった。
体力を使い果たした竜二は、うわ言のように小さく口を動かしながら意識を失った。
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ワモテ(プロフ) - 雪もちわんこさん» ご感想ありがとうございます。シリーズ物の第一作目なので思い入れがあり、ご評価頂けて嬉しいです。(*^^*) (2022年2月20日 22時) (レス) @page11 id: 6d40387773 (このIDを非表示/違反報告)
雪もちわんこ - 文章がよくてとても面白い小説でした!語彙力がない私と比べものにならないきらいです、、、! (2022年2月20日 19時) (レス) @page14 id: 1c6c8bc54a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ワモテ | 作成日時:2021年10月26日 16時