秉燭 ページ8
暗くなった頃。
出された夕食を食べていると、時弥くんが俺のところに顔を出した。
東京の話をいくつかすると、目を輝かせて聞いている。
時弥「凄いや、東京にはいっぱい人がいるんだね。」
水木「あぁ、こことは比べられないほど沢山いるよ。」
時弥「東京の話は前にちょっとだけA兄に聞いたことあったけど、さっきの話は全部初めてだよ。」
夏にしては厚着な寝巻きの袖をいじりながら、時弥くんは純粋な笑顔でそう言った。
Aが東京の話だと?
水木「……彼は東京に行ったことがあるのかい?」
時弥「そうだよ!A兄は元々東京にいたみたい。初めて会ったのは2年前で……」
そうか、Aくんは2年前にこの村に……
どうりで、彼は村人とは違った雰囲気を持っているわけだ。
水木「A兄が村に来たのは、もっと前だったみたいなんだ。僕全然気づかなかったんだよ、不思議だよね。」
水木「あ、あぁ……そうだね。」
この隔離されたような小さな村にいて、気付かなかったのか?
龍賀家と繋がりの深い長田家の時弥くんでさえ?
龍賀家が隠していたのか?
龍賀家の謎はMの原料だけじゃない。
それを解明できれば、俺の社内での地位は……
いや、ダメだ……不可思議なものが全てMに繋がっているとは限らないだろ。
『俺の話ですか?』
時弥「あ!A兄!」
『時弥、体調はどう?』
時弥「今は大丈夫!この前くれたお香を焚くとすごく気分がいいんだ。」
突然現れたA。
駆け寄る時弥くんの頭を撫でながら気にかける。
時弥「おじさんがね、たくさん東京の話してくれたんだ!ゲゲ郎さんも!ちょっと難しかったけど、お話しできたんだ。」
『それは良かったね。もう時間も遅いからそろそろ戻りな。』
時弥が跳ねながら俺たちの話をする。
あの様子だとだいぶAに懐いているんだな。
Aの言葉で帰ることにしたのか、時弥くんはそのまま一言「おやすみなさい。」と言い残してその場を去った。
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