禍福 ページ6
バチンッ！
乾いた音が社に響いた。
乙米「何をしていたのですか？あなたの役割を忘れたのかしら？」
水木と騒ぎのあった社に着いたらコレだ。
素直に来たのに…
遺族たちは観客のようにそれを見てるばっかりだった。
乙米「万が一にも、こんなことがないように……なのに！」
乙米の声は俺の耳には入らなかった。
彼女のことは嫌いじゃない。
ただ好きじゃないだけ、関心がないだけだ。
俺は乙米の息巻いた言葉を他所に、社の真ん中で死んでいる時麿を横目で眺めていた。
左眼を貫かれて即死だ。
服も昨日の集まりのまま着替えていない。
時麿を殺して得をするのは次男克典と、あと……
バチンッ！
乙米「聞いているの？」
『…はい。』
悶々と考えていると、もう一発叩かれてしまった。
しかもおんなじ位置に。
気づいたら乙米が冷静さを取り戻したらしい。
これじゃあ聞いてないことがバレる。
丙江「ねぇ、そんなことしてる場合じゃないんじゃない？誰が時麿兄さんを殺したのか、早く見つけ出さないと。」
乙米「はぁ、アナタの無能さには呆れるわ。」
『ごめんなさい。』
乙米「不気味な子…」
丙江の一声に乙米の意識が逸れた。
最後の辛辣な言葉には、柔らかな微笑みを添えて謝った。
そうだった、この人は俺が不気味でしょうがないんだった。
いや……この家の人間は、沙代姉でさえ俺を得体の知れないナニカのように、気味悪く思っていたんだった。
長田「奥様、侵入者を発見しました。」
雨足は強くなる一方。
そんな時長田が石階段を上がって現れた。
傘もささず、後ろにはゴリラや猿みたいなメンツを揃えて……
カランッ、コロンッ
笑顔で装っていると、聴力を遮る雨音の中妙に耳に入る乾いた音がした。
軽快で、懐かしい……
柄にもなく俺は慌てて石階段の先を見た。
ゲゲ「乱暴な村じゃのぉ。儂は争い事は好まんのじゃが…」
透き通るような白髪に、細身な長身、着流しを着て下駄を履いている。
見たことない。
今の時代は少し古い装いだ。
見たことない。
見たことないのに、なんでこんなに懐かしいんだ……？
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